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新しい自分に出会いたい | 初めての本格登山【#3 赤城山・前編】  by吉玉サキ

昔、ある友人が「人生どんづまり」になっていたことがある。

特別大きな問題があるわけではないけれど、「好きでもない仕事でストレスを溜め、将来に希望もなく、私の人生ってなんなんだろう……」と、どんづまり感を募らせていた。

私は彼女に「山に登ってみない?」と提案したが、「体力ないし無理だよ」と却下された。それを山仲間に話すと、「山に登ったくらいで人生変わらないよ」と笑われた。

そんなことわかってる。人生が変わるとか、そんな大げさな話じゃなくて。

もっと単純に、山の上は気持ちいいから気分転換になると思ったのだ。それに、無理と思ってる人こそ、登れたら自信になるだろう。

前置きが長くなったが、この連載は「山に登ってみたい人を募集し、初登山の様子をエッセイにする」というもの。

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参加しているのは、会社員のゆみさん(右)とまなみさん(左)だ。ちなみに、私はライターで吉玉サキという。

仮にふたりが、当時の友人のような生きづらさを抱えていたとして、登山がそれを解決することはない。

だけどきっと、気分転換と自信にはなる。人生は変わらなくても、今日は変わる。

それを見届けたくて、第一回は手持ちのスニーカーで高尾山(599m)に登り、第二回では登山靴を買った。

そして今回は、群馬県の赤城山(1,828m)に登る。

しかしロケの前夜、赤城山に雪が降ってしまった。ネットでそれを知ったのは当日の早朝。新宿から車で群馬に向かう直前だ。

どうしよう。無謀な登山はしたくない。YAMAPディレクターのさきむらさんと相談した結果、「とりあえず行ってみて、途中でアイゼンが必要と判断したら引き返そう」ということになった。アイゼンは、雪山登山のとき靴に装着する道具。

登山は安全第一だ。なにより、無理しても楽しくないから。


初めての本格登山

登山口近くの駐車場に車を止め、登山靴に履き替える。

ゆみさんとまなみさんの登山靴は前回のロケで購入した新品。「赤城山に行く前に、履いて慣らしておいてくださいね。近所の公園とかでいいので」と伝えておいた。ふたりとも、ちゃんと慣らしてきたそうだ。

高尾山のときはデニムだったふたりだが、今回は山用のズボンを着用(私のお下がりを譲渡した)。経験も装備も、前回よりレベルアップしている。

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赤城山の主峰・黒檜山の登山口。めちゃくちゃ寒いが、ふたりともワクワクした様子。

ふたりに「百名山ってなんですか?」と尋ねられ、「深田久弥さんって人が選んだ、日本のイケてる山ベスト100です」と説明する。この説明で納得してもらえた。

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登り始めから、そこそこ急な岩の道が続く。

ところどころ雪に覆われた場所もあり、いつでも撤退の判断を下せるよう、コーマさんと私が先頭になって歩いた。私の後ろに、まなみさんとゆみさん。

「前の人の足運びを見て、同じところを歩くといいですよ。下じゃなく、少し先を見るのがポイントです」

「ロボットみたいにドシン、ドシンと足裏全体で着地するといいです」

そんな説明をする。

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まなみさんは慎重な性格なのだろう、岩に手をつきながら歩く。ちょうどいい位置に岩がある場合はいいが、あまりにも低い位置で手をつくと、ほとんど四つん這いのような姿勢になってしまう。歩きにくいし、疲れるだろう。

「私が歩いたところに足を置いて歩けば、手をつかなくても大丈夫ですよ」

そう声をかけると「ハイ」と応えるものの、どうしても怖いようだ。

まなみさんの性格は、個人的には登山に向いていると思う。登ったことのない山で「いけるいける、余裕っしょ!」とガンガン歩く人のほうが危ない。

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ゆみさんは体幹のバランスがよく、歩行がうまい。身長が低いぶん、大きな段差は「よいしょ」と越えなければいけないが、あまり大変じゃなさそう。

ただ、本当は大変でも、平気そうに振る舞っているのかもしれない。たぶん、とても気を遣う人だから。

歩きながら何度も振り返り、「どうですか?」「もしつらくなったら言ってくださいね」と声をかける。ゆみさんはそのたび、「ありがとうございます」とほほ笑んだ。

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まなみさんはたびたび岩を掴むため、ニットの手袋が濡れてしまった。

そこでYAMAPのコーマさんが登山用の手袋を貸したところ、「人の手袋を濡らすわけには……!」と、あまり手をつかなくなった。もちろん、手をつかなくても登れる。荒療治だが、姿勢が正されてよかった。

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枝に雪がついている。同じ方向にばかり雪がつくのは、風向きのせいだろうか。空の青に映えて、まるで絵本のよう。

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高尾山や石井スポーツのときより笑顔が多いゆみさん。景色がきれいだから?

一方、まなみさんは登ることにいっぱいいっぱいで、高尾山のときほど笑顔がない。赤城山はちょっと厳しかったか。ごめん……!

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中腹に、視界が開ける場所があった。

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登ってきた方角を見下ろすと、大沼と赤城神社が見える。登山口に向かう途中で見た景色が、今はとても遠い。

「あそこから、こんなに高いところまで登ってきたんですよ」

そう言うと、ふたりも「わぁ……」と表情をほころばせた。

自分の脚でここまで来たなんて、すごいことじゃないか。もっと誇っていいと思う。

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見上げると、山頂らしいところが見える。

「えっ、あそこに行くんですか……?」

ゆみさんとまなみさんは「行けるのかなぁ」と不安そう。わかる。私も、初めての山に登るときはいつもそう思う。

でも、たぶん「行けるのかなぁ」の気持ちは大切だ。それがあるから慎重になれるし、それがあるから登れたときは心底嬉しい。

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ふたりとも、だんだん登山に慣れてきたよう。大変そうにしつつ、息は切れていない。「脚とか痛くないですか?」と尋ねると、大丈夫と言う。私も今は痛くないけど、太腿やふくらはぎに筋肉痛の予感がある。

そろそろ疲れてきた頃、分岐に差し掛かった。

山頂まではもうすぐだ。気が急く。


ついに登頂!達成感と、極寒のランチ

登山開始から2時間弱。ついに、山頂に到着した。

「着きましたよ!」

振り返ると、ゆみさんとまなみさんはほっとした表情。

「わぁ……!」
「本当に着いた……」

だんだん登頂の実感が湧いてきたのか、表情がほぐれて満面の笑みになる。

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まなみさんが「本当に登れると思わなかった。登り始めたときは無理だと思いました」と言った。

ちゃんと登れましたよ。自信持ってください。

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山頂から少し歩くと展望スポットがある。山々と、遠くの街並みを見渡すことができた。空は目に染みるような青だ。

「すごい!」

ゆみさんとまなみさんは嬉しそうに笑いながら、パシャパシャ写真を撮る。ふたりとも登頂の達成感で高揚しているのか、めずらしくはしゃいでいた。

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カメラを向けられ、おどけたポーズをとるふたり。高尾山のときとは比べものにならないほどテンションが高い。

もし車やロープーウェイで展望台に来ても、ここまでテンションは上がらないだろう。自分の脚で赤城山を登ったからこそ、その過程が少し苦しかったからこそ、嬉しいのだ。

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記念撮影をするとき、まなみさんがペンダントをつまんだ。最近お別れした愛犬の遺骨が入っているという。一緒に来れて、まなみさんもワンちゃんもどんなにか嬉しいだろう。

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レジャーシートを敷き、ランチタイム。夫がミネストローネを作ってくれた。家で切ってきた野菜をトマトピューレで煮て、コンソメとスパイスを入れる。

具が煮えるまでの間、とにかく寒くてじっとしていられない。できたてのスープを口にしたときはみんな、「あったかい~」「あったまる~」と、味より温かさのことばかり言っていた。ネパール土産のスパイスを入れたので、体がポカポカになる。

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寒がりのゆみさんに、コーマさんが持ってきた黒いフリースを貸した。体育座りで、足首まですっぽり黒いフリースにくるまるゆみさんを見て、まなみさんが「こういうペンギンいますよね」と言う。

たしかに、頭がグレーで体が黒いペンギンいるな……。コウテイペンギン?

ペンギン発言をYAMAP勢が「こういうペンギンって!」「まなみさん、ひどいなぁ笑」とイジったため、まなみさんは「そういう意味じゃないです! 可愛いって意味で言ったんです!」とめずらしく声を荒げていた。それが面白くてめちゃくちゃ笑ってしまった。

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食後のココアを飲み、山頂をあとにした。

帰りは来た道を下るのではなく、となりの駒ヶ岳を経由して下山する。

そう、縦走するのだ。

次回は赤城山後編。縦走と下山、そして――。ゆみさんとまなみさんは、登山を経験してどう変化したのでしょうか。次回、いよいよ最終回です。

注・赤城山に登る際はくれぐれもご注意ください。


おまけ デザイン吉田の1Pまんが


【チョコ】

YAMAPマンガ_05


【連写】

YAMAPマンガ_06




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