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野外フェスを主催してみて - CALLING MOUNTAIN 2019 後日談

2019年の4月13日〜14日にかけて、大分県のくじゅうやまなみキャンプ村で行われたYAMAP初の野外フェスイベント「CALLING MOUNTAIN 2019」


九州の屋根・くじゅう連山を臨む最高のロケーションで、あたらしい山の楽しみ方や価値観に触れることができる場を目指したこのイベントについて、オーガナイザーとして企画構想からブッキング、地元への協力要請、告知、そして当日の運営を担当したYAMAPの吉川さんに語ってもらった。

もちろん、山を登りながら。

吉川さんのプロフィール

吉川 裕樹
1987年福岡生まれ。学生時代にバックパッカーで訪れたインド・ネパールで人と自然に魅了され、機械系メーカーに就職後、自らの意思で2年間インド勤務を経験し、帰国後2017年にYAMAPに参画。日本の豊かな自然とアウトドアの魅力を多くの人に広めるべく日々奮闘中。趣味は自転車・登山などのアウトドア、レコード収集とDJ。

なぜ、アプリの会社がフェスをやったのか

ーそもそも、アプリをメイン事業とするYAMAPがフェスを開催することになった経緯を教えてください

それは、YAMAPという企業がやりたいこと、目指したいことを体現する場をつくりたかったからです。

YAMAPのビジョンである、「あたらしい山をつくろう。」のエッセンスを感じ取ってもらえる場、山にまつわる様々な文化・モノ・ヒトの見本市という感じでしょうか。フェスに参加すれば、YAMAPがやってきたことややりたいことに共感できる、体感できる場にできればと。

もともとYAMAPでは「自社でフェスをやろう」という構想があって、私が入社した2017年にはすでに話が持ち上がっていました。2018年になり、実行に移そうというフェイズになったのですが、実はそのタイミングで一度仕切り直しをしています。

理由は準備不足。フェスをやることが目的になってしまって、コンセプトに沿ってコンテンツを展開したり、その場に来た人の満足度を本気で考慮する時間が足りていないと感じました。

その後、私がオーガナイザー的なポジションとなり、フェスの名前も「CALLING MOUNTAIN」と決めてプロジェクトが再開されました。

ーそこから、どのようにフェスの方向性などを決めていったのですか?

CALLING MOUNTAINについては、自分の中でヒントになったものが二つあります。

一つが、串田孫一さんの「山と行為」というエッセイです。串田孫一さんの文章に表れている「自然の中で自分を内省する」という自然との向き合い方は、自分が登山をするときに感じていた登山の魅力そのもので、イベントを通じてその魅力を広く伝えられないかと考えていました。イベントのコンセプト文に、「本番は当日ではなくイベント後。そこでの体験が、心の中で芽をだし、人生のヒントになったり、何かを始めるきっかけになれば」と入っているのも「山と行為」にインスパイアされたからです。

もう一つは、鹿児島のかわなべ森の学校で行われるフェス「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」です。このイベントは、一般的なフェスのように音楽が主役というわけではなく、ワークショップやトークショー、フードなど全てのコンテンツがコンセプトに沿って繋がり、循環をしていたんです。このイベントのつくりにも大きな感銘を受けました。同時に、YAMAPがフェスをやるのであれば、山にまつわるあらゆるコンテンツが平等に並ばなければならないとも確信しました。

一緒にフェスをつくってくれるアーティストを

ー今回のフェスは、ホストアーティストという仕組みを取り入れているのが特徴ですよね。

そうですね。もともと、アーティストに関して思いを巡らしたとき、コンセプトをぶらさずに空気感をつくることができれば、必ず人は集まってくれると思っていました。そういった意味で、まずは「こういう雰囲気にしたい」というイベントの理想像を考え始めたんです。

そんな折、たまたま妻が知り合いだった帽子デザイナーの苣木さんの展示会で、苣木さんにフェスのことを相談する機会があったんです。そのとき、「それだったらオラちゃん(OLAibi)を紹介するよ」と言われたことが、OLAibiさんに出演を依頼するきっかけになりました。

CALLING MOUNTAINで対談する苣木さん(左)とOLAibiさん(右)

ーOLAibiさんはインタビューの中でも「山にはお邪魔するくらいの気持ちがちょうど良い」とおっしゃっていて、まさに串田孫一さんの感覚と近いですね。

そうなんです。苣木さんも私がフェスの空気感を説明しているのを聞いて、OLAibiさんがぴったりだと直感したのだと思います。実は、私も以前より彼女の音楽とライフスタイルに興味があり、鳥取のHUTにも遊びに行ってみたいと思っていたので、彼女を軸にコンテンツをつくっていけば、良いものができるんじゃないかという予感はしていました。

OLAibi / photo by Ryo Mitamura

また、その前後に先ほどあげたGOOD NEIGHBORS JAMBOREEというフェスの主催者・坂口さんに相談をしていたのですが、そこで「海外のフェスでは、ホストアーティストというやり方がよくある。OLAibiさんを中に入れて、フェスを一緒につくりあげるのはどう?」というアドバイスをもらったのも大きかったです。

その後、OLAibiさんにホストアーティストお願いをして、OLAibiさんがこのフェスを一緒にやりたいと思うアーティストにお声がけしてもらい、企画自体も一緒に考えてもらいました。結果的に、高木正勝さん、キセルさん、小島聖さん、ミロコマチコさん、曽我大穂さんといった素晴らしい方々の出演が決まり、イベントの空気感もより固まっていったんです。ホストアーティスト制というやり方は、今後も続けたいなと思っています。

高木正勝 / photo by Ryo Mitamura

小島聖 / photo by Ryo Mitamura

ミロコマチコ/ photo by Ryo Mitamura

ペルソナは嫁

ー音楽以外のコンテンツはどのように決めていったのですか?

CALLING MOUNTAINにはメインコンテンツという概念はなく、ライブ・トークショー・ワークショップ・アクティビティ・フード・マーケットといった各コンテンツがコンセプトに沿って、平等に、有機的に繋がることを意識しました。こう言うと聞こえはいいですが、本当はただただいろんな人に助けられて、どうにかこうにかつくることができたという感じです。

ワークショップでは、出展者のみなさんに学びや気づきのあるプログラムを自主的につくってもらいましたし、マーケットでは福岡の糸島でイベントを通じて間伐材の啓蒙活動をおこなうTHINNINGの林さんから特別に間伐材テントをレンタルさせてもらいました。

マーケットエリアに並ぶTHINNINGの間伐材テント

フードでは、ノウハウもなく不慣れな部分が多かった私たちを、福岡県篠栗のカフェ「喫茶 陶花」の村山健吾さんが出店を快諾してくれるとともに、他の飲食店さんのご紹介や取りまとめなどのサポートをしてくれました。地元のお店も快く出店をしてくれたので、非常に助かりました。

「助けられた」という点では、実は妻の存在がとても大きかったです。

苣木さんという、このフェスの最初のきっかけをくれたのも彼女ですし、「喫茶 陶花」の村山さんも彼女経由でした。さらに言えば、GOOD NEIGHBORS JAMBOREEを参考にしたり、坂口さんに相談をしたほうがいいと言ってくれたのも彼女です笑

ーもはや、嫁フェスじゃないですか

あながち間違いじゃないです笑

私は彼女の直感的な部分を本気で信頼しています。彼女自体、登山を始めたのはここ1年なのですが、そこで彼女が受け取っている自然のイメージや、彼女が発する言葉は、まさに私たちYAMAPが伝えたい感覚なんです。なので、彼女の参加者目線の意見はかなり参考にしました。

極論、彼女が満足するイベントをつくることができれば、私たちが来て欲しい大方の人には刺さると思っていました。そう意味では、結構エゴなんです。エゴをどう具現化するかでした。

もし「このフェスのペルソナは誰?」と言われたら、嫁と答えると思います。

フェスと吉川さんについて

ー吉川さんは、誰も知らないようなワールドミュージックのレコードを持っていたり、イベントでDJをしたり、かなりの音楽好き・フェス好きだと思います。CALLING MOUNTAINからは離れますが、吉川さんとフェスについて教えてください

私は学生の頃から、サマーソニック、Taicoclub、犬島フェス、Labyrinth、Rebirth、秘境祭、XLAND、スターフェスティバル、りんご音楽祭など各地の音楽フェスや野外レイヴに参加しては、観客として楽しんできました。その時は、仲間と過ごす非日常に価値を感じていたんだと思います。

ですが、数年前にGOOD NEIGHBORS JAMBOREEと出会って衝撃を受けました。地域に根ざしたコンテンツ、丁寧なコンセプト、適度な規模、厳選された地元のフード。。。すっかりファンになってしまい、毎年鹿児島県に通っています。

ー地域に根ざしたフェスは、どんどんと増えている印象がありますね

今でこそ「地方創生」といった文脈で、参加者が地域に関して何かしらの共通意識を持つようなフェスが行われることが多くなりました。その中でCALLING MOUNTAINは、くじゅうという地域に根ざしつつも、「自然」という地域よりも上のレイヤーで共通意識を持ってもらうイベントにしたいと思いました。その共通意識を参加者が持ってこそ、YAMAPという会社が多大なリソースを割いてフェスをやる意義があると思います。

これはよく誤解されるんですが、私が元々音楽フェスが好きだったから、オーガナイザーになって「フェスをやりたい!」と言っているだけではないんです笑

イベント後に思うこと

ー実際にイベントをやってみて、思ったことはありますか?

オープンするまではイレギュラーなことだらけで、正直に言えば、本当にオープンできるか不安でした。チケットの売れ行きも目標を達成できたのは、本当にギリギリでしたし。

地道にポスターやフライヤーを配って回った

アサインした多くのYAMAPスタッフも、当日になるまでは絵が見えなかったから、私と温度感が少し違うところもあったと思います。

だけれど、蓋を開けてみたら、会場にとてもピースフルな空間が出来上がっていて、当日の朝、齋藤キャメルさんが歌う中に子どもの楽しそうな声がたくさん聞こえた瞬間、自分の中の不安が払拭されました。自分のやってきたことは間違いじゃなかったんだなと。

当日はスタッフのみんなが、フェスを完全に自分ごと化してくれていて頼もしかったです。具体的に「こうした方がいい」という改善案が、どんどんと出てくるのが嬉しかったですね。ボランティアで参加をしてくれたYAMAPユーザーさんや、協力会社のハーベイさんにも本当にお世話になりました。

フェス終了後、YAMAPメンバーで

ー地域との関わりはどうでしたか?

九重町役場の井上さんや九重星生ホテルの安部さんをはじめ、地域のみなさんなしにこのイベントは成り立ちませんでした。地元の旅館が「CALLING MOUNTAIN宿泊プラン」をつくってくれたり、飲食店もポスターやフライヤーを置いてくれたりなど、一緒にイベントを盛り上げていただきました。

また、当日は会場のある九重町のみなさんを無料招待したのですが、会場で地元のおばあちゃんが楽しそうにしていたり、近所の人たちがばったり会うようなシーンを見かけたときはとても嬉しかったです。

ー参加者の反応は?

事後に参加者アンケートを取ったのですが、イベントのコンセプトに共感してくれた方が96%くらいで、「コンセプトを体現したイベントになっていたか」という設問には、80%以上の方が「はい」と答えてくれたことは嬉しかったです。YAMAPのイメージにもちゃんとポジティブな変化が現れてくれてホッとしました笑

会場近くの山でのトレッキングツアー

感想の中には「子どもが家に帰ってから植物や星についてもっと知りたいと言い出してくれた」「山登り=ハードル高いというイメージが変わった」「山の楽しみ方の自由さを知れた」「山をさらに好きになった」いうような声がありました。これは後日聞いた話ですが、フェスの後に山に登りたくなって、そのままくじゅうから少し離れた由布岳を登った方もいたそうです。

それと、アーティストや出店者のみなさんからもポジティブな反応をもらえてことも嬉しかったです。近江商人の「三方よし」ではないですが、関係する人すべてが楽しんでくれることも、このイベントの目標だったので。

もちろん、厳しいご意見などももらいましたが、それはこのイベントのことを考えてくれている証拠だと思いますし、次回に活かせるものなので、ありがたいと思っています。

CALLING MOUNTAINのこれから

ー初開催を終えたCALLING MOUNATIN。これからどんなイベントにしていきたいですか?

イベント後、YAMAPスタッフや協力会社のみなさんと振り返りを行ったのですが、良くも悪くも膨大な数の改善点が上がってきました。次はもっと良いイベントにできると確信しています。

ただ、単純に規模を大きくしていくつもりはないです。そこにいる人たちの満足度がもっと高くなるよう、でも今年とは変化が生まれるよう、そしてもちろん、会社として黒字でまわせるようにしていきたいと思っています。

その上で、一過性で消費的なものではなく、長期的に続けていけるフェスになれば。これからの時代に沿って、常に「あたらしい山をつくろう。」を体現し続けられる存在になれたらと思います。

イベント後、春山さん(左)と吉川さん(右)

FIN.

今回登った山は、YAMAP本社から車で3〜40分ほど。1時間くらいで登れる糸島の可也山でした。おまけに、山頂までの絶景をお裾分けします。

YAMAPの活動日記