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自然との対話から学ぶ、豊かな人生のあり方|HARUYAMA Voice Vol.2

昨年10月下旬、福岡県糸島市の二丈深江(にじょうふかえ)小学校に、ヤマップ代表の春山慶彦が来訪し、「生きるよろこびと自然経験」をテーマに講演会を行いました。

情報やモノがあふれる現代において自然豊かなこの町でたくましく生きるこどもたちに、いのちとは何か、仕事とは何か、好奇心を持つことや心の声を聞くことの大切さを語りかけました。自然体験をする意味を、春山自身の幼少期の体験を交えながら伝えます。

豊かな自然に囲まれた二丈深江

みなさんはこの深江小学校あるいは二丈深江という町のどんなところが好きですか?

(生徒:自然がいっぱいあるところが好きです、あと海がきれい!)

私にとっても、二丈深江は福岡で一番好きな場所です。18歳まで春日市というベッドタウンで過ごしました。その後、京都で学生生活を送り、アラスカの大学に進学して、東京で働いたりして30歳になる前の2010年に福岡に戻ってきました。

この場だから特別に言うわけではないんですが、いろんな場所を訪れた中で私が一番好きな山はここ、糸島地域にある二丈岳です。特に二丈岳へ行く途中にある棚田の風景がお気に入りで、移住するなら「あの場所がいいな」と思うくらいこの地域に特別な想いがあります。

山の景色、豊かな森、美しい海。みなさんが思っている以上に、ここは福岡の中でも特に美しい場所だと感じます。みなさんにとっては当たり前の風景なので、今はそれを実感するのは難しいかもしれません。みなさんが将来ここを離れた時、故郷の糸島という地を改めて思い出すことでしょう。そういう風景に囲まれて小学生時代を過ごしているというのは、何にも代えがたい経験です。いずれ、みなさんにとって大切な宝物になるのではないかと思っています。

受け継がれる”いのち”のバトン

みなさんはどんな時にいのちについて考えますか?

私が初めていのちについて考えたのは、小学校4年生のころでした。すごく不思議だったんですね。「どうして『春山慶彦』という名前で春日市に生まれたんだろう?」と。

なぜこの名前でこの時代を生きているのか。そして、なぜ自分の親や祖父母といった家族と共にいるのか、とても不思議に感じていました。

大人になり、山登りを通じて少し理解したことは、自分のいのちというのは単独で存在しているわけではないということです。その土地の風景や風土、人々とのつながり、家族の絆があって自分のいのちがあるのです。

ぜひみなさんに覚えておいてほしいのは、自分のいのちは一人のものでありながらも、多くのつながりの中にあるということ。そして、そのいのちは次に生まれるいのちのバトンになるということ。この感覚を頭や知識ではなく、体で感じることができれば、生きることがもっと楽しくなると思います。

地元の山からいのちの範囲を知る

そして、時間があったらチャレンジしていただきたいのが、二丈岳をはじめとする地元の山々に登ることです。周囲の山に登ってみることで、自分の住んでいる町を見渡してみてください。このような体験を自分自身でやってみるのはすごく貴重で、大事な経験です。

先ほど言ったように、いのちは自分だけのものではなく、風土や人々とのつながりの中にあります。そして食べものとも深く結びついています。

私たちのいのちは、食事によっても支えられており「昨日給食に出た人参はあの畑で育ったのかな」「夕飯の焼き魚はあの海で捕れたのかな」と想像することがいのちのつながりを感じる一助になります。このように、いのちの範囲を頭に入れていくことで、世界の広がり方、生命の範囲、生きる場所と自分のいのちが無関係ではないと思えるのではないでしょうか。

自分がどんな世界で暮らしているのかを知ることはとても重要です。地元を離れて再び戻ってきたとしても、自分の居場所が立体的に見えるようになります。その経験をなるべく早いうちに体験しておく価値は十分にあると思います。なぜなら、それが本当の意味での「いのちの範囲」だから。

地域の山や川、海などの流域と、みなさんのいのちはつながっています。このつながりを知識じゃなく感覚として実感することで、「地球とつながっているよろこび」を感じ、生きることがより楽しくなる。

私はこれを「世界に抱きしめられた経験」と呼んでいますが、山の中でその感覚を得ることは「自分がここにいていいんだ」という安心感をもたらしてくれます。

心の声から生まれる生き方と仕事の関係

ところで、みなさんは仕事に対してどんなイメージを持っていますか?

(生徒:仕事はものすごく頑張らなければいけないイメージ、疲れる、大変そう。)

仕事に対して、ポジティブに考えてないというのは、大人のせいかもしれませんね。

みなさんが10年後、あるいは15年後、大人になった時、今よりもっと社会は変わっているかもしれない。仕事って本来楽しいものです。大変なことはたくさんありますけど、それも含めて楽しいものなんです。

そこで大事なのが自分が何にワクワクするのかを知ること。また、自分の好き嫌いを把握し、最適な振る舞いを考えることも大切です。「こういう人にはなりたくない」という感覚も含め、これらの心の声は、現在の仕事を通じて非常に重要になっていると私自身も実感しています。自分が何にときめくのかをじっくり考えてみて下さい。

私が小学生の頃は「生き方」と「仕事」というのは、別物として分かれていました。仕事は仕事、生き方は生き方。だからプライベートと仕事を公私混同するなと言われてたし、仕事と趣味は分けろ、と周囲の大人から言われた記憶があります。

しかし、どんどん世の中が変わってきて、仕事の考え方や価値観も変化しています。仕事と生き方を分けるのではなく、生き方の延長で仕事をする人が増えていますし、そうした仕事の仕方が主流になりつつあります。

心が思うままに生き方を定めて、仕事につなげることは、今後すごく大事な選択になるんじゃないかなと思います。

バスケットでも野球でもなんでも、好きなことを一生懸命やるというのが今は大事だと思います。自分が好きなことを徹底的にやってみる。それが最終的には仕事になるというのがわかると今以上に生きやすく、そして人生がより良いものになるのかなと思っています。

将来どんな大人になりたいか

仕事の話に関連して、大人から「将来、何になりたいか」と聞かれたことはありますか?

「将来、何になりたいのか」と「将来、どういう人になりたいのか」の問いは全然違うと思うんです。

将来何になりたいかと聞くと、みんなは職業で答えると思うんですよね。プロ野球選手とかバスケットボール選手とか、お花屋さん、ケーキ屋さん、弁護士、先生とか…。

多くの人は職業で答えがちですが、なぜその職業を選びたいのかが本質的な問いだと思います。野球選手になりたい、ではなぜ野球選手になりたいのか。何をしたいかよりも、どんな人になりたいかが大事。

優しい人、強い人でもいいんです。「強い人になりたい」だから野球選手になりたい、芯の部分を大事にしてほしいんです。芯がちゃんと掴めていれば、5年後、10年後に仮に野球を辞めてYouTuberになっても、芯の部分が別の職業でも生かされ、十分に通じる人間になるようになると思います。

大人とこどもの違い

ちょっと質問を変えて、大人とこどもの違いはなんでしょうか。そして、私たちはいつ大人になると思いますか?

(生徒:自立したら。自分のことが考えられるようになったら。お金を稼いだら。自分の力で何かを手に入れたとか、自分だけで何かができるようになった時。権利の多さ。)

いろいろ挙げてもらいましたが大人になることに正解はありません。法律では20歳からお酒を飲め、タバコが吸えると定められていますが、これが大人であることを示すわけではありません。あくまでも法律で決まっているだけであり、社会は大人とこどもの線引きはしていません。

そこで、ぜひお家で保護者の方に「大人とこどもの違いって何?」と尋ねてみると面白いと思います。

私が考える大人とこどもの違いは、自分の生き方や価値観を軸に、好きなこと、やって良いこと、やってはいけないことを理解しているかどうか。これらは経験を通じて学ぶものであり、幼いうちはわからないことも多いでしょう。でも、やってみないと好きかどうかもわからない。誰かをがっかりさせるかもわからない。経験を重ね、これをやると人が喜び、自分も嬉しい、生きていて楽しいと思える基準を持てるようになることが、大人になる一歩と言えるかもしれません。

日常の身近なことにも多くの発見があります。例えば、「生きるってどういうことなんだろう」「食べるってどういうことなんだろう」と考えたり、「深江という地名はなぜそう呼ばれるのか」など、テレビやインターネットの中だけでなく身の回りにはたくさんの不思議や面白さがあります。

疑問を持つこと、好奇心を育むことを大切にして、日々の生活を楽しんでいってほしいです。私も「毎日がひとつの人生」だと思い、日々に感謝し、楽しんで過ごしていきたいと思います。

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