データ活用で地方や企業に価値を届ける、プロジェクトマネージャーの試み〈 新しい地図を作るひと 〉Vol.02
個性あるヤマップメンバーにフォーカスを当てた連載、「新しい地図を作るひと」。今回話を聞いたのは、地方自治体や企業と登山者をつなぐ事業に携わるアウトドア事業開発部の西日本統括マネージャー米谷太揮(よねたに だいき)さんです。
登山者、地方自治体・企業のすべてにメリットをもたらす観光や商品等のブランディング戦略立案、プロモーション実行支援を推進。
入社して4年目。社内外から「だいちゃん」との愛称で呼ばれ、事業部の屋台骨として活躍されている米谷さん。入社の経緯から仕事に取り組む姿勢、そしてプロジェクトを前進させるモチベーションの秘訣にせまりました!
入社の経緯は、地域の外側から街づくりに貢献したいという気持ち
ーヤマップに入社された経緯を教えて下さい。
もともと地域貢献、まちづくりに興味があって。場づくりの事業を手掛ける不動産ベンチャーで働くかたわら、副業として東京・赤羽岩淵のまちづくりを目的とした会社を仲間と立ち上げて運営していました。
今でもこの事業に関わっているんですが、当時は主にコワーキングスペースやマルシェの運営、クラフトビールのプロダクトづくりなどをしながら、街全体を盛り上げるプロジェクトを推進していました。
好きなことだしやっていて楽しいし、やりがいも感じられる。でも当時はコロナ禍ということもあり、企画したイベントが中止になったりして……。そんなとき地域の中からできることの限界を感じるとともに、身体ひとつでやれることの制約も感じたんです。
地域貢献は今後も軸にするとして、改めて「自分がしたいことはなんだろう?」と考えたとき、地域の内側から関わってきたけど、外側から地域にアプローチをしたことがないなと。
コンサルティングのように一部だけ関わってあとは地元まかせのようなやり方ではなく、最後まで一緒にゴールを目指せるような関わり方を外からできないかなと。さらにいえば地域の外からもっと広い視野で、例えばテクノロジーや新しいサービスを活かして、個人や地域だけではできない、より明確な価値を届ける仕事がしたい。
そんなとき、ヤマップの募集を見つけたんです。内容を見ると、登山地図アプリYAMAPというサービスでユーザー規模も多い。なにより確実に登山者を地方に誘客し、関係人口(※)を作っている功績があって地域に明確な実利・価値を残している。「自分のやりたいことはこれだ!」と思い、2020年にヤマップに入社しました。
私の場合は山や自然から入ったのではなく、ローカルを軸にした入社でしたので登山のほうは当時まったくの初心者でして(笑)。社内でもレアなケースだと思います。
※関係人口⋯⋯移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉。(総務省「関係人口」参照)
ー米谷さんはどんなお仕事をされているのでしょうか?
私の仕事はヤマップの持つリソースを活用して、自治体の観光戦略立案や、企業のブランディング・販売戦略構築、プロモーションの実行支援をすることです。
その手段として、YAMAPが保有する数百万人分の山での行動ビッグデータやユーザー規模・コミュニティを活用したデータ分析・ユーザー調査、自社のWebメディアYAMAP MAGAZINEでの記事コンテンツづくり、アプリの機能を活かしたキャンペーン企画、さらにはユーザーやクライアント・お客様を巻き込んでの関係人口プログラムやイベント設計、ガイド人材育成まで多岐にわたる施策を執り行っています。
私の役割は、西日本エリアの営業担当とプロジェクト推進(企画・遂行)チームのマネージャーです。クライアント企業や自治体から依頼されたプロジェクトを4名のメンバーに割り振りつつサポートを行い、私自身もプロジェクトマネージャーとしていくつかの案件に携わっています。
「届く」ブランディングの鍵はユーザー目線であること
—ビッグデータの活用ができるのは数百万人規模のユーザーがいるYAMAPならではだと思いますが、具体的にどうプロモーション、ブランディングをするのですか?
直近で実施したカメラメーカーさんの場合ですと、登山者への商品の売り出し方やプロモーションの出し方を模索したいとのリクエストでした。まずはヤマップが保有するデータベースを活かし、ユーザーさんにアンケート調査を行いました。
登山シーンでカメラを使用するユーザーさんや今後使いたいユーザーさんに対して、重視する点などを細かくヒアリング。数千件以上集まった回答を踏まえてリアルなペルソナ像と登山市場におけるポテンシャルを提案しました。それは当初メーカー側で設定した顧客像と全く異なるもので、大いに喜んでいただきました。これは多くの登山者ユーザーを抱え、自らも登山者目線で考えられるヤマップだからできる「新たな顧客セグメントの開拓」であり、現在は商品開発の話も出るなど、次の取り組みに進んでいます。
大事なのは常にユーザー目線であることです。どんなに良い商品でもクライアントの視点だけに立った内容ではユーザーさんが置いてけぼりになってしまい、結果として各施策もユーザーさんまで届かず、思うような成果を出すことはできません。
それは、自治体向けのプロジェクトでも同じです。
ー登山者ニーズを重視するのとクライアントの希望を両立させるのは難しそうですね。
じつは過去に地域に来て欲しいがために、登山者ユーザーさんの志向や気持ちに寄り添いきれなかった施策がありました。私たちは対象となるエリアを訪れた登山者がデジタルバッジをもらえる、いわばアプリ上のスタンプラリーのような「デジタルバッジキャンペーン」を各地で実施しているのですが、ある都市で実施したキャンペーンでバッジを入手できるスポットをスナック街に設定したんです。
その魅力や背景を丁寧にユーザーさんに届けられたらよかったのですが、少し唐突な企画に映ってしまったようで……。一部のユーザーさんからは「なぜ登山アプリでスナック?」といった正直な声もいくつかいただきました。3ヶ月で数千名の方が当該地域を訪れ、数千万規模の経済効果も生まれるという一定の成果が出たからこそ、ユーザーさんファーストの姿勢を貫けていなかったのはとても惜しいことで、猛省しました。
登山者であるユーザーさんの声を企業や自治体に届けることも大事な仕事です。企業や自治体としては商品を知ってほしいし、地域に来てほしい。ただそれが先走りすぎると、登山者を置いてけぼりにした情報発信になってしまいます。その先には、成果がでない、というシンプルでシビアな結果が待っているんですよね。
もちろんお客様の要望を汲み取ることも大事です。そのうえでどうしたら登山者に喜んでもらえるか、楽しんでもらえる取り組みにできるか。そこまで考え抜くことが成果に繋がる鍵であり、私たちの腕の見せ所であり、自分たちの存在意義なんです。決してユーザーさんを置いてけぼりにしないことが、関わった全員をハッピーにする秘訣だと考えています。
—企画から各所調整、スケジュール管理などさまざな動きが求められるなかで、プロジェクトマネージャーとして一番求められる能力はなんでしょうか。
まず最初にあげるなら、リーダーシップ。リーダーシップというと大勢を引っ張って「さぁ行くぞ!」みたいな豪傑な人物を想像しがちですが、やり方はいろいろあっていいと思うんです。一対一で対話をするでもいいし、後ろからサポートするでもいい。能力はみんな違うから一人ひとりのあったやり方でリーダーシップ力を発揮すればいいと思います。大事なのは自分が責任を持ってみんなを引っ張っていく意思を持つことです。
あと「コミュニケーションを諦めないこと」も欠かせない要素。
タスク管理とか業務スキルはやっていれば身につきますが、意外とやりがちなのが曖昧なままコミュニケーションを終わらせてしまうこと。特に苦手な人とのやり取りや、面倒な話は誰でも億劫だし、後回しにした結果うやむやのまま終わってしまう。それだとプロジェクトは進みません。
だからどんな相手とのコミュニケーションも、自らボールを動かせる人になることを私自身心がけています。ただそれは私のやり方であって、リーダーシップもコミュニケーションも100通りのやり方があっていい。大事なのは、最終的に関わる全ての人を笑顔でゴールに導けるかどうかだと思っています。
アンケートをもとにコロナ禍の山小屋を予約で満室に
—特に思い出深いプロジェクトはありますか?
長野県安曇野市のプロジェクトですね。ヤマップに入社して最初に手掛けたというのもありますが、コロナ禍にもかかわらず北アルプスにある蝶ヶ岳ヒュッテが予約で満室になる一助になったプロジェクトです。
当時、コロナ禍で激減した山小屋の利用客をなんとか復活させたいとのことで、アンケート調査で登山者の現状課題を聞いてみました。
結果、課題として浮かび上がってきたのは山小屋で三密になるのが怖い、個室がないのが不安などといったユーザーさんの声。
そこで、前から徹底的なコロナ対策を行っていた蝶ヶ岳ヒュッテの取り組みを取材しました。自分も含めてヤマップスタッフが現地に行った際のありのままの様子をYAMAP MAGAZINEに掲載したんですが、記事をきっかけのひとつに、蝶ヶ岳ヒュッテの夏の予約がすべて満室になるという結果につながりました。
さらに北アルプスに来た登山者は直行直帰が多く、麓の店や宿に行く人が少ないという安曇野市が抱える課題に対して、山好きのモデルさんを2名起用し、ユーザーさんが追体験したくなる旅対決記事を展開。これが好評でして、通常の倍近いPV数を達成し、ユーザーさんからも「参考になった」「行きます!」との声を沢山いただきました。
コロナ禍における山小屋の課題と求められるものを調査で的確に把握し、取材を通じて、自らが真摯に課題解決にアプローチできたこと。これはローカルが抱える課題の解決に繋がる仕事だと実感しましたし、山から街への経済効果を作りうる手応えを感じた初めての仕事でした。
自分がいち登山者として取材をし、この情報は価値があると思えた内容。さらには人生初めての北アルプスがこの取材ということもあり、山というフィールドの魅力を五感で感じることができたのもこの取材だったので、強烈に人生に刻まれましたね。
過疎化が進む地方に再び光を当てたい
—最後に、ヤマップでの目標を教えて下さい。
今後の目標はさらに深くデータの活用に焦点を当てて、明確に経済効果が生まれる仕組みを確立することです。
特に自治体向けの誘客事業においてデータ提供や調査をすることで、地域活性への高い効果を生み出せているのですが、データを活用した誘客戦略における勝ちパターンというのはまだまだ突き詰めていけると思っています。チームとして確実に仕組みとして構築させることが今の目標です。
そもそも地域貢献に興味をもったのも、父方の実家が徳島でお遍路宿をやっていることにルーツがあります。お遍路宿というと昔は多くの人で賑わっていたのですが、高校のときに遊びに帰ったら過疎化がすすみ商店街が寂れてしまっていて⋯⋯。
そんな文化的で豊かな自然が残る地域に、再び光を当てたい。やり方次第ではそれができる。それが今自分がヤマップにいる意味だと思いますし、各地に価値を提供できるこの事業そのものが自分の原動力になっています。
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