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ヤマップの資金調達および損害保険会社設立について|記者発表会レポート

広報PRの上間です。2024年5月28日、ヤマップは約20.4億円の資金調達と損害保険会社設立に関しての記者発表会を行いました。ヤマップの大きな転換点となる出来事ですので、今回はその様子をレポートいたします。


開催概要

日時:2024年5月28日 14:00-15:00
会場:株式会社ヤマップ 東京オフィス(西新橋)
内容:資金調達&損害保険会社設立
※16名の出資者の方にもご参加いただきました。 

株式会社ヤマップについて

代表の春山です。ヤマップは2013年に福岡で創業し、「地球とつながるよろこび。」をパーパスとして、登山・アウトドア事業を展開しています。 人間も生き物であり自然の一部である、この感覚を世の中に届けたいという思いで続けてきました。

株式会社ヤマップ 代表取締役CEO 春山慶彦

資本主義社会の不幸の源は、人が豊かになることで環境や風土が犠牲になることだと考えています。

人が豊かになることと、環境が豊かになることをつなげる世界を実現したい。そこにアウトドア企業の価値がある。パタゴニアを超えるアウトドア企業を、日本から本気でつくっていきたいと思っています。

そのため、ヤマップは登山アプリを中心に事業を行っていますが、自然系クラウドファンディング、登山用品に特化した物販のオンラインストア、アウトドアメディアなどの事業も展開しています。難易度は高いですが、パーパスの実現のため、アウトドア企業として、チャレンジしなければいけない領域です。

そんな思いで少しずつ事業を広げてきたのがこの11年で、今回は満を持して登山保険を自社で展開する流れになりました。

創業からの11年を振り返る

YAMAPアプリの特長を簡単に言うと、携帯の電波が届かない山の中でもスマートフォンで現在地がわかることです。さらに、ユーザーさん同士で山の記録をシェアできるSNS的な機能も兼ね備えています。このツールとコミュニティをはじめからワンストップで提供したことが、ヤマップの成長の原動力でした。

日本の登山人口が600万から700万と言われる中、アプリのダウンロード数は430万件を超え、国内においては登山におけるナンバーワンのアプリケーション(※)となっています。

まだ登山をしていない1億1,000万人の人たちに、山で体を動かす楽しさ・かけがえのなさを届けるためにも、ヤマップの事業を成長させていきたいと考えています。

約20.4億円の資金調達を実施

今回、シリーズDラウンドで総額20.4億円の資金調達をしました。14社の皆様からお金をお預かりして、さらなる成長を目指していきます。今日は出資いただいた皆様にもお集まりいただきました。あらためて、ご支援に感謝申し上げます。ありがとうございます。

主な資金使途は損害保険会社の設立とヤマップの保険事業です。5月28日から商品の販売を開始し、約12億円の資金を投じていきます。ベンチャー企業が少額短期保険や保険会社の代理店をやるケースはあるかと思いますが、自分たち自身で保険会社を作るのは異例なことです。

なぜ保険事業を立ち上げるのか?

古代ギリシャからはじまり、今のような保険の仕組みになったのは14世紀のイタリアと言われています。船乗り達が事故にあった時に残された家族を守るため、リスクヘッジのために、仲間同士支え合う共助の仕組みが保険の成り立ちだそうです。

同じ趣味や課題を抱えてる人達同士が支え合う。金銭的な支え合いだけではなく、ノウハウや悩みを共有するのも共助です。この共助の仕組みをどのように現代風にしていくのかが大きなテーマなのですが、危険を伴う山の場合特に保険に大きな可能性を感じ、チャレンジしました。

これからの保険は行動データがベースになる

これまでの保険は統計データや確率論をベースに保険料を算出していました。スマートフォンをはじめ、あらゆるデバイスがインターネットとつながる今、行動データやモノのデータから最適な保険料を算出する時代に変わっていくと予想しています。

ヤマップの行動データをベースにした保険がつくれないか、ここ2,3年ずっと考えてきました。

行動データを活用した保険でもっともわかりやすいのはテスラの自動車保険です。インターネットにつながるテスラ車は、車に乗る距離、急ブレーキの回数などを収集していて、そうした行動データに基づいて保険料を算出しています。

これはテレマティクス保険と言い、2030年までに市場規模は300億ドルを超えると予測されています。

ヤマップには、どの山にどんなルートでいつ誰と何回山に行ったか、あるいは登山計画を出したか、というようなデータが蓄積されます。この行動データを保険に紐づけることで、データに価値が生まれて、適切な保険料でユーザーにプランを提供できるようになります。

遭難事故や怪我した時のデータも残るので、天候や装備などの状況が分かります。これをもとに保険料を算出したり、AIを活用しながら、リスクが高い時には、登山そのものを控えるように提案することも自分たちでできるようになります。

この領域を他社の保険会社さんにお願いするのは非常に難しい。だからこそ、自社で損害保険会社を設立するという意志決定をして、今回約20億円の資金調達をさせていただきました。

貴重な行動データを持ってるベンチャーはたくさんありますが、それを価値化することは難しい。ヤマップはインシュアテックの先駆けになるべく、行動データにもとづいた保険をグループ会社のネイチャランス損保で展開したいと思います。

保険業界に良質な一石を投じる

もう一つ大事なのが、保険の原点に立ち返ることです。具体的には損得ではない共助型の保険をつくっていきたい。例えば、売り上げの一部は登山道整備や山の植樹活動に還元していきます。

これまでもヤマップでは、北アルプスの雲ノ平での登山道整備や、北部九州の英彦山での植樹活動など、さまざまな支援をしてきました。ただ、山に行く人が増えることで山が豊かになる社会を作るためにはその規模や活動の範囲をもっと大きくしながら、毎年継続してお金が回っていくような循環を作る必要があります。

山の環境を良くすることは義務ではなく楽しいこと。登山者同士でその楽しみを広げていく活動を保険をきっかけにやっていきたいです。

今回の保険事業は、アウトドアのニッチな領域かもしれませんが、行動データに紐づいた共助型の保険をベンチャーのヤマップが始めることは「保険業界に良質な一石を投じる」と思っています。

新会社の設立について

新会社「株式会社ヤマップネイチャランス損害保険」の代表、木村です。

前職はメガ損保に30年勤めていました。直前まではデジタルテクノロジーへの投資とビジネス化をやっていましたが、苦労しました。その理由として、良くも悪くもメガ損保の既存ネットワークが障壁となるからです。

株式会社ヤマップネイチャランス損害保険 代表取締役社長 木村彰宏

その後、メガ損保を出て新しいチャレンジを国の方々と一緒にやろうとした時に、春山から声をかけられました。話を聞いているうちに、ヤマップが保有する行動データは世界に類をみない優れたデータだとわかりました。ヤマップのデータがあれば、世界で戦えるインシュアテック損害保険会社が作れるかもしれない。それが発想のスタートラインでした。

私どもの本社は経済金融活性化特区がある沖縄県名護市です。沖縄といえば海のイメージが強いですが、やんばると呼ばれる山の大自然も残っています。ヤマップのパーパスである「地球とつながるよろこび。」への願いを山と海に込めました。

社名は、「自然」のnature(ネイチャー)と「保険」のinsurance(インシュアランス)をあわせた「ネイチャランス」という造語を使っています。多くの方々とサポート、金融庁の皆様のご指導そして社員全員の苦労の甲斐があって、本年5月21日に損害保険業のライセンス(免許)を取得し、その後、営業を開始しています。

最初に金融庁を訪問したのは2023年1月。それから約1年3〜4か月で認可を取得しました。その間に保険業界の事件や地震などもあり、金融庁も大変苦労されたと思いますが、そういう環境にも負けずにこの短時間で認可を取れたことはすごいことかなと思っています。

社員は準備会社が10名程度でしたが、25名程度まで拡大をする予定です。ヤマップのサービスである、アプリのデジタル事業、ストア事業、トラベル事業、アウトドアイベントなどと連携しながらデータ分析することで、お客様に良いサービスを提供できればと考えています。

2種類の保険を販売

今回販売するのは「外あそびレジャー保険」と「アウトドア家財保険」の2つです。

「外あそびレジャー保険」は日常のケガからアウトドア活動中の遭難救助まで対応。子供の迷子などの捜索費用も補償します。遭難者の目撃情報をYAMAPユーザーに募り捜索に活かすサービスもついています。

「アウトドア家財保険」はお家の中の家具、家電から、外に持ち出すアウトドア道具まで補償。一般的な家財保険との料金があまり変わらずに、アウトドア用品も補償されるのがポイントです。

YAMAPアウトドア保険の今後

早ければ2024年の夏くらいには、テレマティクス保険を提供する予定です。具体的には、歩行距離に連動して保険料をパーソナライズして算出する過去に例がない保険です。

ヤマップは人々が自然に触れる機会を増やし、豊かな自然と社会を世の中に残したいと思っています。しかし、自然は楽しい反面リスクも伴う。その不安や心配を取り除くのが、この新しく設立された損害保険会社の役割だと考えています。

出資者代表のコメント

MCPアセット・マネジメント株式会社Senior Vice President土 雄一朗と申します。私たちは香港に本社を置く外資系の資産運用会社で、2021年に福岡市の国際金融都市構想の関係で九州に進出しました。成し遂げていきたいことのひとつに、九州から優秀でインパクトの大きいスタートアップを輩出することがあり、成功事例を作っていきたいと考えています。

MCPアセット・マネジメント株式会社 Senior Vice President 土雄一朗 様

福岡は若いベンチャーやアーリーステージのベンチャーへの支援が非常に厚い一方、ミドルステージ以降は支援が整っておらず、サクセスストーリーはまだ数として多くはない。これは福岡だけでなく日本のベンチャー業界全般に言えることです。

そうした環境下でも、ヤマップは九州の中ではかなり進んでいるベンチャーと認識してます。長く続けるだけでなくきちんと売上を上げていくこと、登山・アウトドア業界でマーケットシェアを獲得して、ユーザー基盤を構築していることに成長ポテンシャルがあり、期待しています。

アウトドア業界に関しても、単純な登山だけでなく、山の遊び方が多様化したり、インバウンドが日本のアウトドアを楽しんでいたりという状況に可能性を感じています。

あまり良くないファンディング環境の中、ベンチャーが損害保険会社を作るというチャレンジは、投資家の中でも理解を得ることは難しく、資金調達でも苦労されたかと思います。

だからこそ、ヤマップにはベンチャーならではの新しいサービスを世の中にどんどん広めて頂きたいなと思っています。新しい価値を世の中に見せて、素晴らしい世界を作ってほしいです。

編集後記

ヤマップの大きな転換点となった、今回の資金調達と損害保険会社設立。金融という新たな力を組み合わせて、ユーザーのみなさんに喜んでもらいながら社会にインパクトを与えられるよう、ヤマップグループ一同これまで以上に邁進してまいります。これからのヤマップにぜひご期待ください!

※ 2021年8月 登山アプリ利用者数調査 (App Ape調べ)
※「YAMAPアウトドア保険」はヤマップグループが提供する保険の総称です