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ヤマップは、新しいパーパス「地球とつながるよろこび。」を掲げます

2022年8月9日、ヤマップは新たなパーパスに「地球とつながるよろこび。」を掲げます。この記事では、なぜ今、新しいパーパスを掲げるのか? その背景や言葉に込めた想いなどを、社外取締役の工藤拓真さん、コピーライターの中村直史さん、ヤマップ取締役代表の春山慶彦さんに語ってもらいました。地球とつながるよろこびとは? ヤマップはこれから何を目指すのか? 3人の鼎談を通してお伝えします。

左から工藤拓真さん、春山慶彦さん、中村直史さん

― まず最初に、新しいパーパスをつくった背景を教えてください。

春山:創業以来、ヤマップが目指してきたことは、根本的に変わっていません。ただ、この数年間で社会は大きく変化しました。コロナ禍で私たちの生活はそれ以前とまったく違うものになってしまった。そんな社会情勢の変化の中で、ヤマップが事業の中心にしてきた「人と自然」というテーマが、これまで以上に大事になっています。

さらに言えば、ウクライナで起きている戦争も、現代社会の歪みによって発生しているのだと感じています。人が引いた境界線ではなく、人類と地球という視点で、もう一度、人と自然、自分たちの生き方を捉え直すことが、これからの私たちには必要です。

そうした背景があり、ヤマップの企業としての存在意義をより広く社会に届けるため、中村直史さんにパーパスづくりの仕事をお願いしました。中村さんは、コピーライティングや広告ブランディングを通じて、人や企業の世界観を形にするお仕事を追求されてきており、かつ登山や自然の経験も豊富な方。ヤマップとのお付き合いも長く、ヤマップの事業や目指していることを理解した上で言葉に込めてくださるのは、中村さん以外にいないと思いました。

ヤマップの新しいパーパス「地球とつながるよろこび。」

― 春山さんから今回の依頼を受けたとき、中村さんはどう感じましたか?

中村:5年前に春山さんに出会い、それ以来、ひとりのファンとして、そしてユーザーとしてヤマップに関わってきました。僕にしてみたら、これまでずっと様々な体験を通してヤマップのオリエンを受けてきたような気持ちなんです。春山さんや社員のみなさんと熊野古道や修験道の山などいろんな旅もしてきたし、ユーザーさんの声も含め、いろんな話を聞き続けてきました。なので、春山さんから今回のお話をいただいた時には、これまで体感してきたことを言葉にして恩返ししたいと思いました。

ヤマップといえばアプリが優れていて便利だし、どうしても「安全に道を迷わずに登山するためのツール」とだけ思われがちですよね。でも、ヤマップの事業の本質は、失われつつある自然の感覚をどう取り戻していくのか、人と自然をどう繋げるのか、といったより大きな視点にこそあります。

これからのヤマップが、もっと広く、自然と人をつなぐ役割を果たしていくために、まず、社員のみなさんとユーザーさんの道しるべになること。さらに、どうすれば山や自然の体験がまだない人たちにも、その価値を伝えられるのか。「体験」でしかわからないことを、言葉でどう感じてもらえるのか。この壁を乗り越えるための、指針や目標になるような言葉は何か。うんうんと唸って、悩みながら考えていきました。

― 難しい点ですね。山や自然、色々な言葉があった中で、なぜ「地球」と「よろこび」の言葉を?

中村:「ヤマップ」というくらいだから「山」がメインテーマです。でもヤマップが持ち続けてきた思いを考えたとき、「山」という言葉だけでは足りない気がしました。「自然」という言葉でもよかったけれど、よりヤマップが目指していることや独自性を示す言葉でありたい。そう考えて、議論も重ねて、「地球」という言葉に行き着きました。

もう一つは「よろこび」という言葉ですね。自然体験に興味がない人たちにも「そこには、自分にも興味の持てる何かがあるかもしれない」。そう感じてもらう必要がありました。そのためには何かしらのポジティブな「感情」を言葉にしたいと思いました。

自然体験や環境保護は「べき論」で語られがちです。「自然を大切にすべき」「環境は守るべき」といったように。でもそれでは、元々自然が持っている素晴らしさや、大きな豊かさが失われてしまう。入り口として興味を持てなくなってしまいますよね。それをもっとポジティブな感情に繋げていくことはできないか。地球や自然の中をぐるぐる循環している生命というのを想像したときに、これはやっぱり「よろこび」じゃないかな、と思ったんです。

工藤:山の魅力を知っている人たちからすると、山という言葉を聞けば、すぐに壮大な物語が頭に浮かぶんですよね。「山とつながるよろこび」という候補案も、実際ありました。

でも、圧倒的にピンときてなかったのがインドア派の私(工藤)で、言葉を聞いてもイメージが全くできなかった。とはいえ、やっぱり、ヤマップだし山がいいのかなあ、と悩んでました。

そこで、春山さんにとって山とは何なのか、あの手この手で問い詰めたんです。そうしたら「山というのは地球の出っ張った部分に過ぎない」というヤバい回答があった。ああ、そういうことかって腑に落ちました。それだったら山じゃなくて地球にしようと決めたんです。できあがったステートメントを読んだ時、あ、これならアウトドア経験が皆無の人(かつての自分)も含めて、すべてを包んでくれると感じました。

春山:中村さんから新しいパーパスである「地球とつながるよろこび。」を聞いたとき、感動と興奮で「うぉーっ」となりました(笑)。ヤマップが目指していることが、すべてこの言葉に込められていると思い、心が震えました。全体性という視点としての「地球」に、命がときめく感覚としての「よろこび」。そこには地球と自分の命の「つながり」という意味もある。大切な言葉をお預かりした。そんな印象を持ちました。

また同時に、この言葉を自分たちでしっかりと育てていかなきゃ、とも思いました。「地球」も「つながる」も「よろこび」もいろんな解釈や可能性がある、抽象度の高い言葉です。このパーパスを事業で具体化し広げていくことを、これから愚直にやっていきたいと思います。

― なるほど。新しいパーパスができて、ヤマップはどう変化しましたか?

春山:今の社会に求められていることと、私たちヤマップの存在意義は重なっている。これまで以上に、自信と責任をもって事業にあたっていこう。そんな共通認識がメンバー間にできた気がします。端的に、視座が上がりました。山を登ることの意味合いとか楽しさを、自分たちで世の中に伝えていく。アプリをダウンロードしてもらって終わりじゃない。山登りの先にある楽しさやよろこび、地球という視点まで伝えていこう、山に関わる人を増やしていこう。そんな温度感が、社内で高まりました。新しいパーパスが、ヤマップの北極星として、一つの道しるべになっています。

工藤:ヤマップに関わるすべての人が、ヤマップ全体とのつながりが感じられる、中心軸のような言葉になってほしいですね。額縁に飾って、ありがたく眺めて終わり、ではなくて、メンバーの日常業務に溶け込む、日々使われる言葉へ。「地球とつながるよろこび。」には、そのポテンシャルがあると思っています。

日々の意志決定の場でも、このパーパスがどんどん使われるようにしたい。当然、大きな経営の判断に使っていきます。でも、それだけじゃ足りない。日常の業務の中での良し悪しを判断する際に使ったり、YAMAP MAGAZINEの記事の方向性を決めたり。そうしてはじめて、社内外にパーパスが染み渡るんだと思っています。物凄く高い理想を掲げた言葉ですけど、この言葉を、ド正面から正直に、普段の業務にまで通底させることができたなら、私たちは世界を変える仕事ができる。本気でそう思っています。

― たとえば、皆さんにとっての「地球とつながるよろこび。」とは?

中村:野山を歩き、季節の風を感じる瞬間。生き物たちの生命を感じる瞬間。それらと自分の生命もつながっているんだと実感する瞬間。いろんなことが思い浮かびます。あと、僕は生活の拠点を長崎県の五島列島に置いているのですが、仕事前に海で泳ぐんですよ。海で泳ぐと何かがゼロになる感覚があります。自分の中にある澱(オリ)みたいなものが染み出して浮力の力でリセットされるような。それですっきりするんですけど。そんなときも、地球とつながるよろこびを感じます。

春山:私にとっては、やっぱり山や森を歩くことです。木々の揺らぎや風の音を感じながら、一歩一歩進んでいく。自分が歩くことで、山からの眺めも周りの景色も変わっていく。長時間歩いていると、自分が山や風景と一体化する瞬間があるんです。

工藤:山素人だった僕は、こういう感じのお話を聞くたびに、「楽しそうだなー。でも自分ひとりじゃちょっと飛び込めない世界だな」と思ってしまってました、正直なところ。

でも、今年6月、春山さんたちと屋久島へ行って、娘を背負ってモッチョム岳に登ったんです。自分という境界線が溶けて、壮大な何かの中にいる感覚というか、そういうことだったのか!って。とにかく楽しかったんです。無我夢中ってまさにこのこと。山を進めば進むほど、自分と地球の境目が曖昧になっていく。その経験をした後は、あらゆるアクティビティの受け止め方が変わりました。海で遊んでいるときも、ただプカプカ浮いてるだけで、海と自分の境界線が曖昧になっていて、地球とつながるよろこびを感じられるようになりました。

「地球とつながるよろこび。」を全身で感じられた経験が一度あると、都会に戻った後も、自分よりもっと大きな存在のことを、思い出せるようになるんですよね。あの感覚を一回経験するだけで、誰もが人生が変わってくる。言葉だけのSDGsとか環境意識とかとは違った深度で、地球のことを自分ごととして考えられるようになるに違いない。僕自身の体験からそう思います。実際、3歳の娘も、目に見える変化がありました。動物や昆虫への関心が強まったり、階段の登り方が野生っぽくなったり(笑)。

あと、言葉だけが先行するのではなくて、言葉と体験がセットになって届かないといけません。これからヤマップは、いろんな新事業も仕掛けていきますが、それらがすべて、「地球とつながるよろこび。」に通じる入り口になっていく。だから、これは決して広告の言葉ではなくて、事業の言葉なんです。

中村:すごく共感します。いわゆるブランディングは、「企業の存在をよく見せるため」という目的で捉えられがちです。でも、本当のブランディングはそうじゃない。本気で信じていることに向かって本気で行動していく。その行動から、信じているものが滲み出て、みんなにも伝わっていく。これが本当のブランディングだと思うんです。

「地球とつながるよろこび。」は、うまいことたくさんの人に興味を持ってもらうための言葉じゃない。ヤマップのみなさんが本当に信じていることを指し示し、行動を重ねて体現していくための「言動一致」のための言葉です。

レイチェル・カーソンの本のタイトルとして有名な言葉に「センス・オブ・ワンダー」がありますよね。でも、この言葉はいまだに的確な日本語に訳されていなくて、「センス・オブ・ワンダー」と呼ばれ続けている。実は「地球とつながるよろこび。」って、センス・オブ・ワンダーそのものだと感じています。ある意味で、これがレイチェル・カーソンの残した宿題だと僕は思っていて。センス・オブ・ワンダーをどのように私たち自身の言葉で、「みんなのもの」にしていくか。まわりの人や次の世代に語り継いでいけるかが、問われていると思うんです。

登山は素晴らしいものです。僕自身、登山するようになり人生が豊かになったと感じます。そして、きっと登山だけじゃなく、野遊びや、近所の森を歩くことや、身近な自然体験の中にも、いろんな「地球とつながる」瞬間があって、「よろこび」があるはずです。この地球に生きていることの不思議さやよろこびへ、自分たちもよろこびながら、みんなを導いていく。ユーザーさんも含めたヤマップの人たちは、そのよろこびへのガイドのような、ともに歩き、ともに発見していく存在なんだと思います。

― 最後になりますが、新しいパーパスを形にしていくために、ヤマップはこれから何をしていきますか?

春山:登山をやっている人だけでなく、まだ登山をやったことのない人たちにも「山を歩く楽しさって、そういうことなんだ」と伝わるコンテンツをつくっていきたいです。例えば、同じご飯でも、自然の中で食べるご飯と、部屋の中で食べるご飯は、おいしさが違う。家族や友人などの人間関係も、自然の中だといつもと会話の中身が変わったり、関係性も深まる。歩く、学ぶ、食べる、寝る、唄う、呼吸する... 。人間が生きる上での基本的な行為を、外にもっと開いていく場としての山や自然。そうした「地球とつながるよころび。」が伝わるコンテンツを多くの人に届け、山を楽しく歩く人を増やしていきたいです。

― 本日は、お話ありがとうございました。

FIN.

文章:青木 光太郎
撮影:齋藤 光馬
編集:﨑村 昂立

追記
今回のパーパス刷新にあわせて、ヤマップの企業ホームページをリニューアルしました。あわせてチェックしてみてください。