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人気連載、対談シリーズ誕生の裏側にある想い|HARUYAMA Voice

YAMAP MAGAZINEで連載している春山の対談シリーズ。

春山の会いたい人を対象に、代表自らインタビューをする本企画。ヤマップを経営する立場で多忙を極めながらも、なぜひとりの人間として学者や作家などさまざまなジャンルの著名人たちと対話を重ねるのか。今回は対談の現場に密着してその理由を探りました。

猛暑が続く7月下旬。春山は鎌倉にある探検家・角幡唯介さんの自宅を訪れ、元気なセミの声が裏山から鳴り響くなか、対談インタビューを行った。

照明2台に動画撮影用カメラ3台、スチールカメラ1台を用意。多数のカメラと煌々と当たる照明に囲まれながらも、終始リラックスした様子で和やかに談笑する様子が印象的だ。

約3時間にもおよぶ対談を終えたあと、春山は疲れたそぶりもなく颯爽とした足取りで東京・虎ノ門のオフィスへと向かう。そこで感想を直撃。

──お疲れ様です。こころなしかオフィスやWeb会議で見るよりも楽しそうに見えました。緊張はしませんでしたか?

いや、むしろこっち(対談)が普通です(笑)。なるべく人と接する際は自然体を心がけていますが、会社にいるときは考えることが多いので表情が固くなってしまうだけで……。対談するときもとくに緊張はしません。著作を通して相手を知るのと直接お会いして知るのは全然別だなと毎回感じますね。

普段の仕事でもそうですけど、ソフトウェアやハードウェア、書籍や動画、アプリにかかわらず、生身の人間が考えながら悩みながら仕事しているということを僕らは忘れちゃいけない。そのためにも、現場に身を置くだとか、尊敬する人にお目にかかることは、大切な機会になっています。

──対談する相手から刺激を受けることも多そうですね。

社内にいると普段顔を合わせるのが、会社のメンバー中心になってしまって、他から影響を受ける機会が少なくなるんです。だからこうしてときどき、角幡さんのような独自の視点、考え方を持つ方とお話しすることでヤマップが提供するサービスや会社のあり方を俯瞰して見つめ直すことができます。

「今のヤマップは、社会的にどのような役割を担っているのか?どうすれば、より多くの方に、山を歩くことの価値を届けられるのか?」と自問自答しながら、多角的な目線を養う。そのためには定期的に対談をすることでアンテナを磨いておくことが重要です。

角幡さんと対談中の春山

── 一度は名前を聞いたことあるほどの著名人と対談してきた春山さんですが、この対談シリーズが始まった原点はどこにあるのでしょうか?

始まりとなるきっかけは2020年3月ごろ。YAMAPのダウンロード数が140万を超えて、有料化に舵をきったときです。それまでは「サービスが先、利益は後」のスタンスで経営していたのですが、持続可能な会社になるため、サービスの一部を有料化する判断をしました。これからはサービスも利益も追求していこうとユーザーへの説明会を開きましたが、一部のユーザーから反対の声、厳しい声があがって。

反対することは僕自身も理解できるのでいいのですが、なぜYAMAPは、個人事業主や中小企業ではなく、先行投資で大きな成長を目指すベンチャースタイルであえてやっているのか。その意味や思いがユーザーに全然伝わってないということに気がついたんです。

──「ベンチャーでやる意味」というのは、世の中や社会にインパクトを与えるということですか?

対談の中でもお伝えしているのですが、3.11の震災と原発事故を経験して僕が強く感じたのは、多くの人が自然、とくに風土から大きく離れた生活をしてしまっていること。自然を身体で感じる機会がほとんどなくなってしまっていることが、日本社会における最大の課題だと思うんです。

人間の考え方や精神、世界の捉え方から変えなければいけない。そのためには理屈や知識ではなく、山へ行って、自然を歩いて楽しもう。知識や情報ではなく、自然とのつながりを実感する経験がより身近になれば、私たちの生命が風土と地続きであることが感覚としてわかるのではないかと感じます。

人間も自然や環境の一部であるという感覚を取り戻す手段として、登山や山歩きは可能性があると思い立ち、YAMAPという事業をはじめました。しかし、個人事業主で小さくまとまっていてはパーパスである「地球とつながるよろこび。」を広められない。パーパス実現のためには、大きく成長できるベンチャースタイルでやる必要があります。

あえてベンチャー企業としてチャレンジしつづけることで、都市と自然、人間と自然をつなぐ架け橋になれるのではないか。あらためてどういった想いや哲学でビジネスをやっているのかをもっと外に発信するために、2022年、解剖学者の養老孟司先生との対談を皮切りに、企画をスタートしました。

──対談のテーマはやはり自然でしょうか?

対談するテーマは、シンプルに「自然観」です。ヤマップのパーパスである「地球とつながるよろこび。」のもと、僕自身が今までの人生において影響をうけた人たちに声をかけさせてもらい、自然に焦点を当てたお話をうかがっています。

最初は純粋に70代以上の方の自然観を聞いておきたいという思いがあり、はじめに対談させてもらったのが『バカの壁』(新潮新書)の著者であり解剖学者の養老孟司先生でした。70歳以上の方の多くは、戦争を経験し、都市化する前の日本の風景・風土で育っています。

彼ら・彼女らの自然観や人生観はとても貴重で、今の僕たちの世代にはない部分があります。自然観や世界観は、ひと世代で築くものというよりも、3、4世代、100年以上をかけて、つなぎながら育んでいくものでもあると思っています。

その意味でも、自然に関わる仕事をするYAMAPが、70代以上の方の自然観や自然へのまなざしをお訊きし、記録しておくことは、とても大事なことだと思いました。お訊きしたお話が事業に直接つながるわけではありませんが、事業にあたる上での思想的な深みを耕す機会にもなっていると思い、続けています。

そして今回インタビューした角幡さんは40代と今まで対談してきた中では若いほうです。また、最近の対談シリーズであげると経済学者の成田悠輔さん、医師の稲葉俊郎さんも30代・40代と自分と同年代の方たちです。自分と同じ世代の方がどう考えているのか、いずれ彼らの自然観の思想をまとめた書籍を作りたいと考えています。


──ところで対談中、びっしり書かれた手元のメモが気になります。

対談中にメモを取ることも多い

いちファンとして角幡さんの書籍はすべて読んでいます。今回の対談が組まれる以前から気になる点、いいなと思った箇所をノートに書き写していました。その中から今回の対談にふさわしい内容を抜き取り、A4用紙に記入して深堀りしていきます。冒険、脱システムに対する考え方は僕としても思うところがあり角幡さんとキャッチボールすることで想いを深められたのでよかったです。

メモを取るのは角幡さんの本に限らず、さまざまなジャンルの本や新聞から書き写しています。大学時代から続けている習慣で、自分にとって書くことは考えること。紙にアウトプットすることで客観的に物事を見れるので、仕事で考えるときも基本紙に書きますね。ノートの数もすでに221冊になりました。

──次の対談相手はもう決まっていますか?

まだ決まってはいませんが、対談したいと思っている方は何人かいて。なかでも現代アーティストの鴻池朋子さん。ご自身でも山を登るし、動物の毛皮にアートするなど独自の自然感をお持ちな点が興味深いです。あと、『バリ山行』(講談社)で芥川賞を受賞された松永K三蔵さん。書籍のなかでYAMAPに触れてくださっているのでぜひお話してみたいです。

(写真:藤田慎一郎)


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