THE GUILD 安藤さんがCXOとしてジョインしました - YAMAPのこれから
はじめまして。私たちYAMAP(ヤマップ)は、山登りを楽しく・安全にサポートするサービスを運営している会社です。
このたび、THE GUILDの安藤さんが、YAMAPのCXO(Chief Experience Officer)としてジョインしてくださることになりました。
ということで、安藤さんがジョインするまでの経緯や、これからのYAMAPが目指すことについて、安藤さんと春山さんが、九州の名峰・くじゅう連山を登りながら語る様子をお送りします。
YAMAPとは
YAMAPは、電波が届かない山の中でも自分の現在地とルートが分かる安心・安全の登山アプリ。登山SNSとしての側面もあり、ダウンロード数は120万を超える登山・アウトドアプラットフォームです。
2人のプロフィール
安藤 剛 (Ando Go)
THE GUILD 共同創業者 UX.UI Designer / デザイン・エンジニアリング・データアナリティクスを武器に、様々な企業・組織・サービスに関わる。
春山 慶彦(Haruyama Yoshihiko)
株式会社ヤマップ代表取締役 / アラスカ大学中退後、知る人ぞ知るグラフィック誌『風の旅人』編集部に勤務。その後、YAMAPを創業。
なぜ安藤さんにCXOをお願いしたのか
安藤:実は2018年の12月くらいから、お手伝いさせていただいています。領域は主にUX / デザインが中心ですが、ブランディングに関するところもやっています。YAMAPユーザーが登山をもっと安全で気軽に楽しんでもらえる事を目標に、少しずつ改善しているところです。
ーー春山さんが、安藤さんにお声がけしたきっかけを教えてください
春山:市場をリードする様々なサービスと比べて、YAMAPのUI / UXは「まだまだ」だと、以前から思っていました。プロモーションなどを通して積極的に外部へ発信する前に、プロダクト自身をもっと磨きたいという思いがあったんです。
ただ、それを誰かにお願いするのであれば、UI / UXの知見があるだけでなく、登山経験があってユーザーの視点でYAMAPを見れる人がいいと考えていました。でなければ、オフラインで地図が見られることの価値や、山の情報交換をすることの価値を実感できないと思っていたんです。
そんなとき、社内のメンバーから「THE GUILDの安藤さんが山に登っている」という情報を共有してもらいました。私も安藤さんのTwitterやnoteの記事などを拝見していて、UXやデータを活用した取り組みに造詣が深い方だと思っていたので、その日のうちにお願いをしました。
安藤:当時、私はソーシャルでそこまで山に登っていることを発信していなくて、たまたまTwitterでポストしたら、その日に春山さんから連絡が来たんですよね(笑)
春山:そうだったんですね(笑) ご縁だと思います。
安藤さんが山にハマったきっかけ
ーー安藤さんは、なんで登山を始めたんですか?
安藤:きっかけは、4年前に行ったアイスランド旅行ですね。リングロードという、アイスランドを一周する道を旅していたんですが、その際にトレッキングルートに寄ってみたんです。トレッキングルートに入って、山を少し歩いただけなのに、圧倒的な自然を目の当たりにして、何かとても幸せな気持ちを感じたんです。
安藤:帰国した後「あの幸福感は何だったんだろう?」と考えるようになりました。考えてみれば、日本もアイスランドと同様に世界有数の火山大国で、バラエティに富んだ地形を持っていることに気づきました。それからは、日本国内の山も登ってみようと、自分で情報を収集して、ギアを集めて.... 次第にハマっていったという感じですね。
春山:それまで、自然経験はなかったのですか?
安藤:学生の頃から、スノーボードやサーフィンにハマっていたので海や山には良く行ってました。そのときは、アウトドアというよりもスポーツとして捉えていたのですが、今思えば、そこで見た雪山の景色や海と一体になる感覚が、自然に触れる原体験になっていたのかもしれません。
春山:なるほど。Twitterで拝見してますが、安藤さんめちゃくちゃ山に登ってますよね。うちの社員より登ってるんじゃないかと、よく話題になってます。
安藤:YAMAPさんに関わらせていただくようになってからは、特に良く登るようになりました。THE GUILDのポリシーというかスタンスの様なものでもあるのですが、お仕事をお手伝いさせていただく時「クライアントよりも前のめりになる」ということを信条にしています。もっと山に登って深く理解しなければと思い、それこそほぼ毎週山に登っては他の登山者に話しかけて色々聞かせてもらっています。
アラスカに住んでいた春山さん
ーー安藤さんは、春山さんという人にどういう印象を持ちましたか?
安藤:仕事柄、いろいろなベンチャーの経営者と仕事をしたり、メンタリングもするんですが、春山さんは異質だと感じました。もの凄くピュアに、強烈に、サービスや社会的な貢献に対して、人生をかけて取り組もうとされてるなと。なんとなく野生的な印象です。
春山:笑
ーー野生的といえば、春山さんは屋久島やアラスカに住んでいた時期もあるんですよね?
春山:はい。大学生のころ、屋久島の旅館に住み込みで働かせてもらいながら、魚の獲り方やさばき方、植物の見分け方を、旅館のご主人に教えてもらいました。自然の素晴らしさを初めて知ったのはそのときです。その後、写真家の星野道夫さんに大きな影響を受けて、彼が過ごしたアラスカで生活しました。イヌイットの村を何度も訪ね、アザラシやクジラの狩猟なども一緒に経験しましたが、そこでの経験は間違いなく今に繋がっていると思います。
安藤:例えば、どんな経験を?
春山:例えば、当時はイヌイットの猟と聞いて、昔ながらの知恵や伝統に頼っているんだろうと思っていたのですが、それはとんだ思い違いで、イヌイットのおじいちゃんが、最新のGPS機器を使っていたんです。そして「ヨシヒコ、GPSはすごいぞ。どんなに海が荒れて、霧深く周囲が真っ白になったとしても、宇宙の視点で自分の位置がわかる。こんな便利な道具、使わない手はない」みたいなことを言うんです。
安藤:それは説得力がありますね。
春山:実際、猟の中で何度かGPSに命を救われました。GPSのすごさに気づくと同時に「デジタルかアナログか、最新機器か伝統的な知恵か... 狭い分別を超えて使えるものは何でも使って、ちゃんと生きて家に帰ろう」とする彼らの姿勢、彼らの道具に対する考え方に感銘を受けました。
春山さんが山に惹かれた理由
ーー色々な自然経験をしてきた春山さんが、とりわけ「山」を意識するようになったきっかけは何だったんですか?
春山:大学生のころ、先生に連れられて初めて北アルプスを登ったときの経験が大きいと思います。穂高、前穂、奥穂を二泊三日で縦走するという、今思えば初心者にやらせる山行ではなかったですが。
安藤:笑
春山:アルプスの風景は、私にとって驚天動地の体験でした。「日本にこんな壮大な景色があるのか」と。でも、山登り自体はとてもきつくて、登っている最中は「なんでこんなに一所懸命に登ってるんだろう」と思ったりもしていました。なので、山登りの喜びやすごさを感じたのは、実は下山後なんです。
安藤:それは面白いですね。詳しく聞かせてください。
春山:山から降りて街に帰ってきたとき、アルプスの景色が突然フラッシュバックしてきたんです。「あの景色をもう一度見たい」と、頭じゃなくて体が求めていることが分かりました。
それと、街に戻ってきた自分の体が、全身入れ替わったような感覚があったんです。エネルギーに満ちているというか、体が整ったというか。
都会にいると頭でっかちに考えてしまいがちですが、山に行くと自分の思考をリセットすることができます。すると、自分にとって大事なことがクリアになる。今も1ヶ月に1回は、そういう山の時間を取るようにしています。
安藤:確かに自然に入ると、内省的な時間が増えて、都会で暮らしていることの不自然さというか、街の中では色々な感覚が麻痺していることに気づかされますね。2年前くらいからマインドフルネスに興味を持っているんですが、登山はそれに近い体験だと思います。自然に赴くことで、自分の内面が整備されて、幸せに繋がっているんだなという実感があります。
春山:はい、山には間違いなくマインドフルネスがあると思います。
なぜYAMAPをはじめたのか
ーーYAMAPをつくるのに至ったきっかけは何だったんですか?
春山:直接的なきっかけは、2011年。今まさに歩いているくじゅうでの出来事でした。ふと、山道の途中でGoogleマップを開いてみたんです。もちろん圏外だったので、地図は表示されず画面は真っ白だったのですが、現在地を示す青い点だけはちゃんと動いていることに気がつきました。その瞬間、雷に撃たれたような気がしました。
GPSの信号は人工衛星から取得しているので、基地局の電波が届かない圏外でも利用ができる。つまり、スマートフォンにあらかじめ山岳地図をダウンロードしておけば、圏外でも自分の現在地が分かる。現在地が分かれば、道迷いによる遭難を防げる。スマートフォンは、命を救う道具になるかもしれない。
直観で、自分がこれから為すべき仕事が分かりました。帰りの車で、私一人だけ異様に興奮しているのを、まわりのみんなは不思議そうに見ていたと思います笑
安藤:今、我々はYAMAPの始まりの地を歩いているんですね。
ーーただ、春山さんはもともと起業家を志していたわけではないんですよね?
春山:そうなんです。私は自然での経験や本を通して、現代人が自然の中で体を動かす機会が少なくなっていることに大きな課題感を感じていました。人間の手や足は狩りや農耕のため、自然の中で体を動かすために進化したのに、今はコンクリートなどの人工物に囲まれ、椅子に座ってキーボードを叩いている...。これが良いとか悪いではなく、バランスが取れていないと思っていたんです。
安藤:ホモ・サピエンスが歴史に現れたのが数十万年前。それからずっと、ヒトは自然で暮らしていたはずですよね。それがこの100〜200年で、一気に変わってしまったというのは、確かにバランスが崩れている気はします。
春山:はい。なので、YAMAPの構想に行き着いたとき、多くの人が気軽に安全に山に親しむ世界を実現できれば、私が感じていた社会課題も解決できるかもしれないと思いました。そして、人生をかけて自分でやるしかないと、腹を括りました。
安藤:なるほど。すべてが繋がった瞬間だったんですね。
※実は、春山さんはもともと写真家を目指していたのですが、そのお話はまた今度。
安藤さんが加わり、YAMAPはどう変わっていくのか
ーー今後、安藤さんがYAMAPでやりたいと思っていることはありますか?
安藤:まず、現在取り組んでいることは、デザインシステムの見直しです。YAMAPユーザーとのタッチポイントはアプリやWebなど数多くありますが、直感的な理解のしやすさや一貫性の観点で、まだまだ課題があると感じています。
特にアプリについては、山での安全に直結するものであるため、非常に高いユーザービリティが要求されると思っています。このあたりのデザインの見直しは、実はだいぶ進んでいますが、YAMAPユーザーの安全性が何よりも最優先されるべきなので、一度に大きく変わることはなく、これから少しずつ変わっていくことになります。
また、「あたらしい山をつくろう。」というYAMAPの理念を最初に見たとき、「これからの山の体験をアップデートするんだな」という印象を受けました。これはちょっと先の話かもしれませんが、そのアップデートにテクノロジーで貢献をしていきたいです。
私は、もっと多くの人に登山をして欲しいと思っています。一方で、装備を揃える、安全の知識を身につける、自分にあった山を見つける、といったことが大変であることも経験上知っているので、そういった課題をテクノロジーを使って解決できないかと思っていました。
今、「都会にいること」と「自然に行くこと」の境界線は、はっきりしています。その往来を、テクノロジーでグラデーションにしたい。その取り組みが、「あたらしい山をつくろう。」の一部になるんじゃないかなと思っています。
春山:そうですね。実は、「あたらしい山をつくろう。」という言葉が生まれる前から、YAMAPには「都市と自然をテクノロジーで繋ぐ」というビジョンがありました。
山の世界はネット環境がない前提なので、自然とITが結びつく必然性がなかったのですが、スマートフォンが登場してからは、通信とGPSが結びつき、ようやく自然とITが重なる時代が来たのだと思っています。
テクノロジーによって、もっと気軽に、安全に、自然を楽しむことができる世界を実現するために、安藤さんはじめTHE GUILDのみなさんとあたらしい山の文化をつくっていきたいです。
テクノロジーで自然を身近にする
安藤:YAMAPのダウンロード数は120万以上。これだけのユーザーの方が居れば、提供できる価値はもっとたくさんあるはずです。例えば、それはオフライン環境下での膨大な活動データだと思っています。
地図アプリとしてのYAMAPは、昔から使われていた紙の地図が、スマホによって手のひらに収まるようになり、なおかつ自分の位置がGPSで分かるというところに、大きな技術革新があったと思います。ですが、地図単体という意味合いでは、紙の地図から大きく変わっていないという見方もできます。
春山:確かに、コンパスと紙の地図を使いこなせる人にとって、今のYAMAPの地図はそこまで価値がないかもしれません。
安藤:だからこそ、地図にはテクノロジーによってアップデートする余白があるはずです。その鍵の一つは、集合知だと思っています。
例えば、YAMAPユーザーの情報を使ってリアルタイム性のある地図をつくる。ここの道が崩れていて危ないとか、ここは道が分かりづらいとか、登山道の状況は刻々と変化をするので、そういった情報は極めて有用です。
現在THE GUILDのメンバーの協力も得ながら、YAMAPに蓄積されたデータを使ってデータの活用の可能性について色々と実験をしている所です。
他にも「自分にとってその山はどのくらいの難易度なのか?」という疑問も、集合知を使えば相対的にユーザーが理解することもできると思います。
春山:「自分の位置を確認する」役割だった地図に、色々な人の行動データやその人の気づきなどが載ってくると、自然の中で可視化しづらかった領域が、視えるようになるかもしれませんね。
そもそも、YAMAPがユーザーの山行記録である「活動日記」を軸とした登山者コミュニティとしての設計も、wiki的に山の集合知が蓄積していくプラットフォームを目指しているからなんです。
2013年のリリース以降、YAMAPには膨大なデータが眠っていますが、情報の見せ方は本当にこれからなので、安藤さんにはぜひお力添えいただきたいです。
安藤:はい、もちろんです。地図というと2次元を想像しがちですが、高さの軸が加われば3次元になりますし、時系列が加わると4次元になります。テクノロジーによって情報がさらに付加されていくと、もっと気軽に安全に山に入るためのツールになると思います。
ーーそれはもう「地図」とは呼ばないのかもしれませんね。
春山:そうですね。今の世の中、地図には物理的な余白がなくなってきたと思います。でも、表面的な地形をトレースした地図ではない、物質的な余白ではない意味での地図づくりというものが、ようやくここから始まっている気がします。それが何かは明確に言語化できないのですが、その方向に面白いことがあるという実感はあります。
その先に広がる景色を、YAMAPを通して見ることができれば、嬉しいですね。
FIN.
おまけ
今回、2人がくじゅうを登っている様子をOsmo PocketとMavic Airで撮影した動画です。