家族を安心させようとしたら、YAMAPの安全性がアップデートされた - みまもり機能開発者&春山さん対談
こんにちは。YAMAPのPRをしている@さきむらです。
先日リリースされたみまもり機能ですが、ありがたいことに大きな反響をいただいています。(日経MJはじめメディア掲載多数、プレスリリースがはてブのホットエントリーにもランクインしました)
みまもり機能とは
登山中の位置情報を、家族や友人に知らせることができるYAMAPの機能。電波が届かない場所の位置情報も、YAMAPユーザー同士のすれ違い通信を活用することで家族や友人に共有することができます。
ということで、この記事では機能開発者の森脇さんとYAMAP代表の春山さんのお二人で、みまもり機能について語ってもらいました。(今回は山に登りません。ごめんなさい)
森脇 誠智(写真左)
1974年、熊本県出身。いちユーザーとしてYAMAPを使い続けるうちに、どうせなら好きな事を仕事にしてしまおうとYAMAPに入社。iOSアプリの開発を担当するクールなエンジニア。
みまもり機能のルーツは香港の雨傘革命?
ーーみまもり機能が生まれたきっかけを教えてください
春山さん:みまもり機能に繋がる出来事は、2014年に遡ります。その年、香港でデモ(雨傘革命)が起きました。そのとき、デモ参加者の間で連絡手段として使われていたのが、インターネットを介さずBluetoothでメッセージをやりとりするチャットアプリ(ファイヤーチャット)だったんです。
ファイヤーチャットのような仕組みで、電波が届かない山の中で位置情報を共有したり、メッセージの交換ができれば、山の遭難対策としてインパクトを出せるのでは...と感じました。
当時、YAMAPアプリのダウンロード数はまだ30万件くらいでしたが、将来のユーザー規模を見据え、実証実験的にBluetoothを使った機能を入れました。それが「こんにちは通信」です。(当時は、ユーザー同士がすれ違うと通知が来るという仕組み)
ただ、こんにちは通信は機能としてあるだけで、うまい使い方ができていませんでした。交流に意識が向きすぎていて、YAMAPの本丸である安心・安全の要素がカバーされていなかった。そんなこんにちは通信を、森脇さんがみまもり機能への活用に昇華させてくれました。
ーー森脇さんは、この経緯を知っていたんですか?
森脇さん:いえ、知らなかったです。ただ、こんにちは通信は中途半端な機能だと思ってました。
春山さん:笑
森脇さん:私がみまもり機能の着想を得たのは、2018年の6月くらい。YAMAPを使っているユーザーさんから、会社宛に電話で「知り合いが山で遭難してしまった。捜索の手がかりになる情報がYAMAPにあがっていないか」といった相談を、立て続けに受けたんです。当時のYAMAPの機能には、活動中に位置情報を家族や友人に知らせる機能がなかったので、そのときは無力感を覚えました。
だからこそ、「活動中に位置情報を共有する機能があればいいな」と思いましたし、こんにちは通信を上手く使えば、電波が届かない場所の位置情報も共有できるかもしれないことに気づきました。これらの機能で命が助かる人もいるはずだと、確信に近い手応えがあったのを覚えています。
春山さん:それは、森脇さんが「自分で使いたいから」という思いの延長での確信でしょうか?
森脇さん:そうですね。まず、私の家族、妻や子どもを思い描きました。私が山に行っている間、妻と子どもへ自分の現在地を知らせることができれば安心だと感じましたし、もし私が遭難しても何かしら痕跡を残すことができる。自分の中で、具体的な活用イメージが持てたのは大きかったです。
春山さん:今の森脇さんのエピソードですごく頼もしいのは、カスタマーサポートメンバーの会話を横で聞きながら、エンジニアである森脇さんが、自分ごとにしている点です。一緒に仕事をする仲間として、とても心強いです。
ユーザーさんから直に声をいただけるのは、本来、幸せなこと。惰性で行わず、ユーザーさんの声をプロダクトに活かすためには、私を含めYAMAPで仕事をする一人ひとりの感受性と意志によるところが大きい。
森脇さん:春山さんも言うように、みまもり機能開発のきっかけとなる電話は、私が取ったものではありませんでした。でも、一緒に同じ時間、同じ場所で仕事をしていると、そういうユーザーさんからの情報が自然と入ってくる。もし、部署や役割ごとに情報が遮断されていたら、この機能は生まれなかったかもしれないです。
これは、YAMAPの良いところだと思います。ユーザーさんの声が聞こえるし、その後の情報も共有される。ユーザーさんの存在が視えるから「自分に何かできるんじゃないか」「何かしないといけないんじゃないか」と、使命感が生まれていると思います。
リリース直前で、まさかの。。。
森脇さん:この機能を形にしようと思い、昨年の社内アルプス登山で実証実験をしました。実際にアルプスでプロトタイプを使ってみた結果、電波のないエリアでもイメージ通りに動いてくれました。
ーープロジェクトを進める上で、苦労はありましたか?
森脇さん:当初予定していた6月半ばのリリース前日までは、ほとんど問題がありませんでした。
ーーリリース前日までは。。。
森脇さん:リリース前日に、春山さんに「この状態ではリリースできない」と言われたんです。そこから大変でした。
ーー笑
森脇さん:チームでリリースしようとしていたものが、世の中に圧倒的なインパクトを出せるレベルに達していなかったのだと、今になっては思います。
春山さん:みまもり機能は、登山の安全をアップグレードする、画期的な機能だという感触があったんです。なので、中途半端な形ではリリースしたくありませんでした。
技術や機能は、伝え方によって捉えられ方が変わります。ユーザーさんへの伝え方・分かりやすさまで含めて機能開発だと、私は思っています。森脇さんをはじめ開発に携わったメンバーには申し訳なかったけれど、ベストな状態でのリリースを目指し、仕切り直しを決断しました。
森脇さん:おかげで、ここ数年で一番忙しかったです(笑) ですが、ネガティブな意味での苦労はなく、燃えながらやることができました。大変だけれど、楽しかったです。
春山さん:良かったのは、仕切り直し後も、メンバー間で生産的な議論をしながら最善を目指して進められたこと。YAMAPは強い組織だと改めて感じました。その背景には、「YAMAPの機能を高め、登山の安心・安全に貢献するんだ」という純粋な思いが、メンバーそれぞれにあったからだと思います。
みまもり機能に込める思い
ーーこの機能について、森脇さんはどういう思いがありますか?
森脇さん:私は家族を安心させたいという思いが何よりの軸でした。「登山中でも大切な人と繋がっていて安心」という感覚を具現化できたことが素直に嬉しいです。「YAMAPを使って登山すると安心だよね」と思ってもらえるような空気感をみまもり機能でつくれたらと思います。
とはいえ、この機能は始まったばかり。使われないと意味がないので、これから、いかに浸透させていくかが次のチャレンジですね。
春山さん:プロダクトやサービスの芯は、一人の人間の熱狂によってつくられると思っています。そうやってつくられたプロダクトは、大切な人の心に届く。一人の心に届くからこそ、みんなの心にも届く。
儲かりそうだからとか、幻想のユーザー像をイメージして大衆向けにプロダクトをつくっても、一人の心には届かない。結果、誰も使わないサービスになってしまう...。
今回のみまもり機能は、森脇さんの個人的な思いと、YAMAPのユーザー数がマッチして実現した奇跡的な機能です。会社の同僚として、いちYAMAPユーザーとして、みまもり機能を実現してくれたメンバーみんなに心から感謝しています。
ーー春山さんは、みまもり機能をどう捉えていますか?
春山さん:みまもり機能の誕生によって、YAMAPの安全性はバージョンアップしました。
これまでのYAMAPは、オフラインであっても、登山中の現在地を本人が把握できるだけでした。今後はその機能に加えて、オンラインであれば自分の位置情報を家族や友人に伝えることができるようになり、YAMAPユーザー同士が山ですれ違えば、オフラインの位置情報も共有できるようになりました。山の安心・安全も次の段階へと進むでしょう。実際に遭難救助に携わる現場の方からも、みまもり機能へ大きな期待を寄せていただいています。
圧倒的な自然を前にすると、人間の小ささや無力さを、いい意味で実感できます。だからこそ、山では人と人が助け合う「共助の文化」が育ち、現代にまで受け継がれている。登山に根づく「共助の文化」の一端がデジタルシフトしたひとつの例が、みまもり機能です。みまもり機能の有効性や安心感をユーザーさんへお伝えし、多くの方々に使っていただきたいですね。
YAMAPは、テクノロジーで都市と自然をつなぐことをミッションとしていますが、みまもり機能を通して、そのミッションの一端を実現できたと思っています。
ーー最後に、森脇さんにお聞きしたいです。奥さんにこの機能をリリースして、なんて言われましたか?
森脇さん:「あんたすごいじゃん」と言われました(笑)
ーーありがとうございました!
春山さん:笑
END.
編集後記
みまもり機能が実装される上での、一番の動力源は「家族を安心させたい」という一人のエンジニア・森脇さんの思い。
この話を聞いて、YAMAPっぽいなと感じました。
少し前に、YAMAPのフェス「CALLING MOUNTAIN」の企画・運営を担当した吉川さんに話を聞いたのですが、そのとき「このフェスのペルソナは嫁」という一文が出てきたんです。要するに、自分の奥さんが満足できるようなイベントになれば、想定しているお客さんたちにも刺さる、ということです。
今回の対談の中で、春山さんも
一人の心に届く機能だからこそ、みんなの心に届く。
と語っていましたが、YAMAPの機能やサービスの背景には、確かに「自分が使いたい」「この人のためにつくりたい」という「n=1」が隠れているものが多いと感じます。
自然や登山が好きなつくり手だからこそ、1ユーザーの視点で開発や事業がつくれる。これはYAMAPの大きな強みだと、改めて思った次第でした。