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新しい自分に出会いたい | 初めての登山靴 【#2 石井スポーツ編】 by吉玉サキ

初めて登山靴を買った日、自分が無敵に思えた。まだ山に登ったこともないのに、「これがあればどこにでも行ける!」とワクワクした。

新しいことを始めるとき、道具を買うことで本気度が増す。

「買ったからにはやるぞ!」と気合いが入るし、単純に、自分がレベルアップしたみたいで嬉しい。道具を買っただけで自分が変わるわけじゃないって、本当はわかってるけど、形から入ってテンションを上げるのだって大切だろう。

無敵になった(気がした)あの日から12年が経ち、私は石井スポーツ本店に来ている。初めて登山靴を買う、ゆみさん・まなみさんの付き添いだ。

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手前がゆみさん、奥がまなみさん。さらに奥の黒づくめが私(吉玉サキ)。

あらためて説明すると、この連載は「山に登ってみたい人を募集し、初登山に同行する」というもの。応募者の中から選ばれたのが、都内で働く会社員のゆみさんとまなみさんだ。

第一回は、手持ちのスニーカーで高尾山に登った。

そして、第二回となる今回は登山靴を買いにきた。次は、登山靴じゃないと登れない山を登るために。

新しい年を迎えて、新しいことを始めたい人も、そのための道具を買おうか迷っている人もいるだろう。

そんな人に、ぜひ読んでほしい。ちょっとだけ自分を変えたいと行動した、ゆみさんとまなみさんの話。


石井スポーツ本店へ

12月某日の夜。会社帰りのゆみさん・まなみさんと神保町で待ち合わせ、石井スポーツ本店にやってきた。

YAMAP読者には説明するまでもないが、石井スポーツは老舗の登山用品店。ちなみに、私が初めて登山靴を買ったのも石井スポーツだ(札幌の店舗だけど)。

この日は私のほかに、夫のデザイン吉田(漫画担当)、YAMAPのコーマさんが同行した。

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会社帰りのふたりは、当然のことながら山っぽくない格好。まなみさんは紺や黒といったベーシックカラー、ゆみさんはベージュやピンクなどの淡い色でまとめている。色の好みは、登山靴選びに反映されるのだろうか。

私にとっては馴染みのある登山用品店だが、ふたりにとってははじめての場所。もの珍しそうにキョロキョロしていて、なんだか楽しそうだ。前回の高尾山ロケで出会ったふたりだが、前からの友人同士のように見える。

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登山靴コーナーはさすがの品揃え。軽登山用のハイキングシューズ、本格登山用のトレッキングシューズがずらりと並ぶ。

はじめて登山靴を見たふたりは、「なにがなんやら……」という表情。あれ、テンション上がらない? もしかして、登山靴のゴツさにひいてる……?

まぁ、今まで触れてこなかったジャンルのものって、いきなり見てもピンとこないか。

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まずは足のサイズ計測。店員さんが丁寧に測ってくれた。ゆみさんは22.5~23㎝、まなみさんは23.5~24㎝。

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続いて、お店で借りた登山用靴下をはき、靴の中敷に足をのせる。足の形を見るのだ。

まなみさんは標準、ゆみさんは足の横幅が細いそう。合う靴は見つかるだろうか?


はじめての登山靴選び。おすすめを試し履きしてみる

いよいよ靴選びに入る。しかし、ゆみさんもまなみさんも、積極的に登山靴を手に取らない。

そりゃあそうだ。試し履きするにしても、直感や見た目で「これ!」と選べるタイプの人は、そもそもこの企画に応募せず勝手に山に行くだろう。

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どんな靴を選ぶかは、「どの山に行くか」で選ぶのが一般的だ。私も山道具には詳しくないので、店員さんを頼ることにする。

店員さんに、ふたりは高尾山しか登山経験がないこと、これが初めての登山靴であること、次は標高1,000m以上の山に行きたいことを伝える。

すると、それぞれのサイズや足の形を考慮し、おすすめを選んでくれた。まずはそれを試すことに。

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まなみさんは『サロモン』。きれいなブルーグレーだ。

ソール(靴底)もアッパー(靴底以外の部分)もやわらかく、軽い。はじめての人にも履きやすそう。

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ゆみさんは『スカルパ』を試し履き。

普段、スニーカーすらあまり履かないと話すゆみさん。服装もフェミニンで、登山靴姿が想像つかない。

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……と思っていたら、意外と違和感がなかった。ワンピースの色と合ってるせい?

「スキー靴履いてるみたいです……」

ゆみさんは小柄で華奢だ。彼女にとっての登山靴は、私の感覚よりずっと重いだろう。歩くだけで疲れてしまうのではないか?

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ふたりはそれぞれ、店内にある人口の坂を登ったり下りたりする。

店員さんは、「登山靴は、“面”でフィットしてるほうがいいです。“点”で当たって痛いところがある靴は危ないですよ」「靴の中で、足指が動いたほうがいいです」など、助言をくれた。

「どうですか?」と尋ねると、ふたりとも「うーん……?」と首を傾げる。

一足目で「気に入った! これにする!」みたいな展開にはならないだろうなぁ、と踏んでいたが、ふたりとも想像以上に微妙なテンションだ。高い買い物だし、気に入る登山靴に出会えるか不安なのかもしれない。見守る私も不安になる。

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次に店員さんが持ってきてくれたのは『AKU』の靴。同じ種類のサイズ違いで、ゆみさんのは黒とグリーン、まなみさんのは黒とピンクのツートンカラーだ。

まなみさんは「さっきのよりもピタっとしてて『足が守られてる感』あります」と言い、ゆみさんは「さっきのより底が厚いです。台に乗ってるみたい」とぴょんぴょんジャンプして見せた。かわいい。

たしかに、一足目よりも剛性感が高いモデルだ。ふたりとも、履いたときの感覚の違いにちゃんと気づき、それを言語化できている。

これなら、いくつか試し履きしたのち、自分に合うものを選べるだろう。


運命の一足に出会えるか?

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慣れてきたのか、ふたりとも棚に並んでいる靴を手に取るようになってきた。

まなみさんは『ノースフェイス』の登山靴を見つけ、キラキラした表情で「これ、履いてみたいです」と言う。薄墨色の、飾り気ないデザインの登山靴だ。服装からわかるとおり、シンプルな色やデザインが好きなのだろう。

自分で店員さんを呼び止め、試し履きしていた。

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しかし、実際に履いてみると、足首に当たる部分が気になると言う。

「履いてたら痛くなるかな。でも、馴染むかもしれないし……」

見た目はこの靴がいいけれど、履き心地は最初に履いた靴のほうがいいそうだ。

私の考えですけど、と前置きし、「靴に違和感あると、登山中もつい気になっちゃうんですよね。なるべくノンストレスで履けたほうがいいと思います」と伝えた。

とは言え、見た目を重視したい気持ちもわかる。道具を愛せるかどうかにおいて、見た目も重要なファクターだから。

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一方ゆみさんは、『キャラバン』のピンク色の靴が気になるようだ。小声で「ピンク……」と言っていたので、色が気に入ったのだろう。店員さんに、「これ、サイズありますか?」と声をかけていた。だんだん靴選びに主体的になっていく姿に、私もなんだか嬉しくなる。

しかしピンクの靴は現品限りで、ゆみさんのサイズはなかった。ゆみさんは眉根を寄せ、残念そうに笑う。そして、まなみさんが最初に履いた『サロモン』の靴を履いてみたいと言った。こちらはゆみさんのサイズがあり、試すことができた。

いろいろ選べていいなぁ、と思う。私は足の幅が広くて合う靴が少ないから、色を選べたことがない。

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デザインと履き心地の間で揺れていたまなみさんだが、履き心地を優先し、最初に履いた『サロモン』の靴に決めた。

ゆみさんも、最後に履いた『サロモン』の靴に決めた。履き心地もだが、淡い色合いが決め手になったよう。

結果的に、ふたりの登山靴はおそろいになった。示しあわせるでも、かぶったことを嫌がるでもなく、とても自然な流れで。

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靴選びに迷っていたふたりだが、「これにする!」と決めてからはずっとニコニコしていた。

この靴に決める前、まなみさんは店員さんに「千畳敷カールに行ってみたいんですけど、この靴で行けますか?」と質問していた。BSの深夜番組で千畳敷カールの映像を見てから、「いつかあそこに行ってみたい!」と思っているそうだ。店員さんに「大丈夫ですよ」と言われ、嬉しそうな顔をしていた。

行ける行ける。いつかと言わず、きっと来シーズン行けるよ。

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「素敵な靴は素敵な場所へ連れて行ってくれる」という言葉を聞いたことがある。

12年前に石井スポーツで買った登山靴は、私をいろんな場所へ連れて行ってくれた。その経験があったから、私は今こうして、山にまつわる文章を書いている。

先輩風をびゅうびゅう吹かせて言うと、今日出会った登山靴はきっと、ゆみさんとまなみさんを見たことのない場所へ連れて行ってくれるだろう。未来が5°くらい、素敵な方向に狂うような。

そんな確信がある。


山なんて、自分には無縁だと思ってた

ここからは、登山靴とは関係ない。興味のある人だけ、長い余談だと思って読んでほしい。

石井スポーツを出たあと、私と夫はご飯を食べて帰ることにした。みんなを誘ったがそれぞれ予定があり、まなみさんと三人で食べることになった。

ご飯を食べながら山の話をしていると、まなみさんが言った。

「私、山ってグループで登るものだと思ってたんです。楽しそうな人たちがワイワイ登るものだと思ってて。そういう属性のコミュニティにいなかったから、自分には無縁だと思ってました」

どうやらまなみさんは、登山を「パリピ」「陽キャ」などの言葉で表現される人たちの文化だと思っていたらしい。

私が登山を始めた2007年頃、パリピはオレンジレンジの流れる車で海に向かうものだった。2009年頃に山ガールブームが起こり、山にも若者がたくさん来るようになった。

ブーム以降しか知らないまなみさんは、「山=みんなでワイワイ」のイメージが強いようだ。私にはない認識だったから、かなり意外だった。

まなみさんにも話したけれど、実際の山は必ずしも、「みんなでワイワイ」がデフォルトではない。山に来る人たちは世代もさまざまだし、社交的な人もいれば内向的な人もいる。グループ(パーティという)で登る人たちもいれば、ソロ登山が好きな人も。

だから、もしもまなみさんのような理由で「山なんて自分には無縁」と思っている人がいたら、「そんなことないよ」と声を大にして言いたい。

山にハマるかどうかは、行ってみなきゃわからない。だからまず、行ってみてほしいな、と思う。

次回はゆみさん・まなみさんと、標高1,828メートルの赤城山に登ります。


おまけ デザイン吉田の1Pまんが


【保証】

石井スポーツ編_02(入稿)


【新しい靴】

石井スポーツ編_01(入稿)



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ありがと山!
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